アトリ
アートレーヤ · アナスーヤーの夫
サプタルシの一人に数えられるヴェーダの聖仙。妃アナスーヤーが三神を赤子に変えた説話と、そこから生まれた三人の子で知られる。
解説
概要
アトリ(Atri / अत्रि)は、サプタルシ(七聖仙)の一人に数えられるヴェーダの聖仙である。『リグ・ヴェーダ』第五巻の多くの讃歌が彼と一族に帰される。妃は貞女の名高いアナスーヤー。三神が彼女の貞節を試した説話と、そこから生まれた三人の子で知られる。
神話・物語
『リグ・ヴェーダ』第五巻はアトリ一族の讃歌集とされ、アグニ、インドラ、アシュヴィン双神、マルトらへの讃歌を含む。日食に関わる讃歌(5.40)は、太陽を覆った暗黒を彼が祈りによって取り除いたと語り、古代インドの天文観察の記録として言及されることがある。
最も名高いのは妃アナスーヤーをめぐる説話である。彼女の貞節の評判を試そうと、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三神が托鉢僧の姿で庵を訪れ、裸で施しをするよう求めた。彼女は水を注いで三神を赤子に変え、乳を与えたという。驚いた三神の妃たちの願いによって元の姿に戻された三神は、それぞれの分身を子として与えると約した。こうしてブラフマーからチャンドラ、ヴィシュヌからダッタートレーヤ、シヴァからドゥルヴァーサスが生まれたとされる。
『ラーマーヤナ』では、追放中のラーマとシーターが彼の庵を訪れる。アナスーヤーがシーターに貞節の道を説き、色褪せぬ衣と装身具を贈る場面は、この叙事詩における女性同士の対話として知られる。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、三神を赤子に変えるアナスーヤーとともに描かれる場面である。象徴となるのは、その庵に流れる時間の穏やかさであり、争いを主題とする他の聖仙たちと対をなす。
系譜と関係
妃はアナスーヤー。子はチャンドラ、ダッタートレーヤ、ドゥルヴァーサス。ただしヴェーダの月神チャンドラと同一視するかは文献により異なる。ダッタートレーヤは三神一体の権化として独自の信仰を集め、ドゥルヴァーサスは短気な聖仙として叙事詩の各所に現れる。クンティーに神々を招く真言を授けたのもドゥルヴァーサスである。
文化的足跡
北斗七星の一つに配される。ゴートラ(家系)の名として広く用いられ、アートレーヤと呼ばれる家系は彼に出自を遡らせる。妃アナスーヤーは貞女の範として、今日でもインドの家庭で語られる存在である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。