ターラー
ウグラ・ターラー · ニーラ・サラスヴァティー · エーカジャター
マハーヴィディヤーの第二。猛毒を飲んだシヴァを自らの乳で癒した母とされ、仏教のターラー菩薩と名も図像も重なっている。
解説
概要
ターラー(Tārā / तारा)は、マハーヴィディヤー(十大明妃)の第二に数えられる女神である。名は「星」あるいは「渡す者」を意味する。カーリーと近い青黒い姿で表され、両者はしばしば区別しがたい。世界を焼く猛毒を飲んだシヴァを、自らの乳によって癒した母として語られる。仏教のターラー菩薩と名も図像も重なり、両者の関係はインド宗教史における重要な論点である。
なお、この名は『ラーマーヤナ』のターラー(ヴァーリンの妃)、およびブリハスパティの妻ターラーとも共通する。いずれも別個の存在である。
神話・物語
最も広く語られるのは、毒を癒す説話である。乳海攪拌の折、ヴァースキが吐いた猛毒ハーラーハラを飲んだシヴァは、喉を焼かれて意識を失った。そのとき女神は嬰児の姿をした彼を膝に抱き、自らの乳を含ませて毒の力を鎮めたとされる。カーリーが夫を踏んで我に返る図像と対をなし、こちらは母として夫を救う姿を示す。
シャークタ派の教説においては、カーリーが時そのものを、彼女が彼岸へ渡す働きを担うとされる。名の「渡す者」(ターラヤティ)はこの理解に基づく。ウグラ・ターラー(恐るべきターラー)、ニーラ・サラスヴァティー(青いサラスヴァティー)、エーカジャター(一つの結い髪)といった相に細分される。
図像と象徴
青黒い肌をもち、横たわるシヴァの上に立つ。四臂に鋏あるいは剣、切り落とされた首、青蓮、髑髏の杯を執る。虎皮をまとい、蛇を装身具とし、髪は一つに結い上げられる。カーリーとの弁別は、髪型と持物、そして立つ姿勢に求められるが、作例によっては判別が難しい。
象徴となるのは乳である。毒を飲んだ者を、破壊ではなく養うことによって救うという構図が、この女神の性格を決めている。
系譜と関係
シヴァの配偶神とされ、パールヴァティーの一相として理解される。マハーヴィディヤーの体系ではカーリーに次ぐ第二の位置にあり、両者は青黒い肌と火葬場という共通の場をもつ。
文化的足跡
西ベンガルのタラピートは、この女神を祀る主要な聖地であり、19世紀の行者バーマーケーパーの修行地として知られる。アッサムやビハールにも聖所がある。
仏教のターラー菩薩との関係は、長く論じられてきた。名、青ないし緑の体色、「渡す者」という語義、そして救済者としての性格が重なる。ヒンドゥーが仏教から取り入れたとする説、逆とする説、共通の基層から双方が生じたとする説が並存し、決着していない。少なくとも8世紀以降のベンガルとオリッサにおいて両者が並行して信仰されていたことは、碑文と作例から確かめられる。