アンギラス
アンギラス · アンギラー · Angiras
ヴェーダの聖仙で、神的な知識の教師にして人と神々の仲介者。火の神々の第一とされアグニと結びつく。讃歌によって岩を裂き牛を取り戻した。神々の師ブリハスパティの父。『アタルヴァ・ヴェーダ』の別名にその名を負う。
解説
概要
アンギラス(Aṅgiras)は、ヒンドゥー教のヴェーダに現れる聖仙(リシ)である。『リグ・ヴェーダ』では神々と人とのあいだを取り次ぐ者、神的な知識の教え手として語られ、火と讃歌の力に結びつく。七聖仙(七聖仙)の一人に数える文献と、一覧に入れない文献とがある。東宝の怪獣映画のアンギラスとは無関係である。
神話・物語
アンギラスとその一族アンギラサスは、火と密接に結びつく。『リグ・ヴェーダ』第1巻31番の讃歌は、アグニを「最初のアンギラス」と呼び、火の神そのものをこの聖仙の名で讃えている。
ヴェーダの名高い神話では、パニ族が牛を洞窟(ヴァラ)に隠したとき、アンギラサスがインドラやその祭官ブリハスパティとともに讃歌を唱え、その言葉の力で岩を裂いて牛を解き放つ。詩人が言葉によって閉ざされたものを開くというこの主題は、ヴェーダの詩人たちの自負をよく表している。
知の教え手としての姿は、ウパニシャッドにも受け継がれる。『ムンダカ・ウパニシャッド』の冒頭では、富裕な家長シャウナカがアンギラスのもとを訪れ、それを知ればすべてが知られるものは何かと問い、アンギラスが二種の知、すなわちヴェーダなどの低い知と、不滅のものを知る高い知とを説く。
後世の説話では、女神ラクシュミーを見誤って呪いを受け、牝豚の頭に変えられたチョーラ国の王妃チョーラデーヴィーに、アンギラスがマハーラクシュミーの誓戒(ヴラタ)を授けて元の姿に戻したとされる。
図像と象徴
本サイトの主画像は、この王妃の説話を描いた18世紀末頃のインドの細密画(メトロポリタン美術館蔵)から、聖仙の部分を切り出したものである。
系譜と関係
ブラフマーの意から生まれた子の一人とされ、十人のプラジャーパティの一人に数えられる。妻はスムリティ、あるいはシュラッダーとされる。子には、神々の師ブリハスパティ、聖仙ウタッティヤ、サンヴァルタがある。
『アタルヴァ・ヴェーダ』は古くは『アタルヴァーンギラサ』とも呼ばれ、聖仙アタルヴァンとアンギラスの名を冠する。そこでは、アタルヴァンの名が吉祥の呪法に、アンギラスの名が敵を害する呪法に結びつけられていた。
文化的足跡
『リグ・ヴェーダ』の讃歌を伝えた詩人の家系にも、アンギラスの系統に数えられるものが多く、第6巻を伝えたバラドヴァージャ家はその代表である。アンギラサの名をもつ氏族(ゴートラ)は、今日もバラモンの系譜のなかで受け継がれている。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。