サラスヴァティー
サラスワティー · サラスワティ · 弁才天
ヒンドゥー教で学問・言葉・音楽・芸術をつかさどる女神。もとは聖なる河の女神で、言葉の女神ヴァーチと結びついて知の女神となった。今日も学びの守り神として広く崇拝される。
解説
概要
サラスヴァティー(सरस्वती / Sarasvatī)は、ヒンドゥー教で学問・言葉・音楽・芸術をつかさどる女神である。白い衣をまとい、白い蓮華や白鳥の上に坐す清らかな姿で表され、知恵の神の代表的な一柱として、今日も学びの守り神として篤く崇拝される。その名は「水を持つもの」「流れるもの」を意味し、起源をたどれば一条の河の女神であった。過去の物語ではなく、現に生きた信仰のなかで祀られる女神である。
神話・物語
最古の聖典『リグ・ヴェーダ』において、サラスヴァティーは実在した聖なる河サラスヴァティー川そのものを神格化した女神であった。その水源は天にあるとされ、穢れを清め、豊かさと力を人々に与える存在として讃えられた。
やがて彼女は、世界で最初に言葉を発したと伝えられる言葉の女神ヴァーチと結びつき、河の女神から知と言葉の女神へと性格を移していく。よどみなく流れる水の連想が、流れ出る言葉・知識・調べへと重ねられたのである。プラーナ文献が編まれる中世以降のヒンドゥー教では、もっぱら学問と芸術の女神として崇拝され、サンスクリットとその文字を生み出した女神とも伝えられるようになった。
図像と象徴
サラスヴァティーは、四本の腕を持つ純白の女神として描かれるのが典型である。白い肌に白い衣は、混じり気のない清浄と真理を象徴する。一組の手には数珠と聖典を執り、瞑想と学識を示す。もう一組の手は、ヴィーナーと呼ばれる撥弦楽器をつまびく——その調べは、言葉と知識が世界へ流れ出るさまの象徴とされる。坐する台座や乗り物(ヴァーハナ)は、清浄を体現する白い蓮華、あるいは水鳥のハンサ(白鳥・鵞鳥)で、ときに孔雀を伴う。水瓶を執る姿もあり、いずれも河の女神であった来歴を静かに留めている。
系譜と関係
後代の伝承では、創造神ブラフマーの配偶者とされる。ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァからなるトリムールティ(三神一体)に対応して、女神たちをラクシュミー・パールヴァティーと三柱で数えることもある。
インド・イラン共通の古い時代にさかのぼる水の女神という点で、ゾロアスター教の河の女神アナーヒターと起源を同じくするとする説もある。ただしこれは河の名に基づく系統上の対応であって、両者を同じ神として祀った歴史があるわけではない。
文化的足跡
学問の女神への信仰は、春の祭ヴァサント・パンチャミーとして今日も営まれ、人々は学業成就を願い、幼子にこの日はじめて文字を書かせる地域もある。
仏教はサラスヴァティーを弁才天(弁財天)として受け入れた。経典を通じて中国へ、さらに日本へと伝わり、習合と本地垂迹の流れのなかで、七福神の一柱として親しまれるようになった。水と財、弁舌の女神という性格は、河の女神であった淵源を遠く映している。現代でもFGOや女神転生などの作品に登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。