ポリュクセネー
ポリュクセネ · ポリュクセナ · Polyxene
トロイア王プリアモスの末娘。落城後、アキレウスの亡霊の求めに応じてその墓前で犠牲に捧げられた。
解説
概要
ポリュクセネー(Πολυξένη / Polyxenē)は、プリアモスとヘカベーの末娘である。落城のあと、アキレウスの亡霊の求めに応じてその墓前で犠牲に捧げられた。
彼女は『イーリアス』に現れない。後代の詩人が加えた人物であり、アガメムノーンの娘イーピゲネイアと対をなす「トロイア側の犠牲の乙女」として造形された。出航のために娘を捧げるギリシアと、帰航のために娘を捧げられるトロイア——同じ手続きが戦争の始めと終わりに置かれている。
神話・物語
兄トローイロスとともに泉へ水を汲みに出たところをアキレウスに待ち伏せされ、兄は殺された。ここから、アキレウスが彼女に惹かれたとする筋が生まれる。パトロクロスの死から立ち直らないアキレウスが彼女の言葉に慰められ、アポローンの神殿で会うようになり、自らの弱点が踵にあることまで明かしたという。同じ神殿でパリスとデーイポボスが待ち伏せ、その踵を射たとされる。恋がそのまま殺害の手段になる構成である。この系統では、責めを感じた彼女がアキレウスの死後すぐに自ら死んだとも語られる。
エウリピデス『ヘカベー』『トロイアの女』が伝えるのは別の筋である。トロイア陥落後、ギリシア勢の船に順風が吹かない。アキレウスの亡霊が現れ、自分の墓に彼女を捧げよと求めた。彼女は嘆願せず、奴隷として生きるよりは死を選ぶと述べて祭壇へ赴く。ネオプトレモスに喉を切られたとき、倒れながらも衣を整えて肌が露わにならないようにした——処女としての体面を最後まで保つこの細部は、古代の読者が繰り返し引いた箇所である。
図像と象徴
古代美術が描いたのは犠牲の場面である。本ページの主画像は前570〜550年頃のアッティカ黒絵式ティレニア式アンフォラ(ティミアデスの絵師、大英博物館)で、三人の戦士に抱え上げられた彼女の喉にネオプトレモスが剣を当てる場面を描く。同時代の作例としては最も早いものにあたる。
トルコのチャナッカレで発見されたいわゆる「ポリュクセネーの石棺」(前6世紀末)にも、この犠牲と、嘆く女たちの姿が刻まれている。犠牲の場面が墓の装飾に選ばれる点は、アンドロマケーの別れの場面が副葬用のクラーテールを飾ることと同じ発想に属する。
アキレウスに惹かれる恋の物語は、古代の図像にはほとんど現れない。トローイロスの待ち伏せを描く陶画に彼女が水瓶を持って加わることはあるが、そこでの役は逃げる目撃者である。
系譜と関係
父プリアモス、母ヘカベー。兄弟にヘクトール、パリス、デーイポボス、ヘレノス、トローイロス、ポリュドーロス、姉妹にカッサンドラー。
母ヘカベーは、彼女とポリュドーロスの遺体を続けて見たことによって狂気に陥ったと伝えられる。姉妹のうち二人——彼女とカッサンドラー——がいずれも勝者の手で死ぬ点で、この王家の娘たちは同じ結末を分け持っている。
文化的足跡
セネカ『トロイアの女たち』、オウィディウス『変身物語』第13巻がこの犠牲を扱い、以後の西洋文学における「進んで死を受ける乙女」の型を作った。ルネサンス以降の絵画では、ギリシア勢に引かれていく場面が好まれた。