ピリュラー
ピリュラ · ピッリュラー · Philyra
ギリシア神話で「菩提樹」を意味する名。クロノスとのあいだにケイローンを産んだオーケアニス、ナウプリオスの妻、アーソーポスの娘の三人が知られる。
解説
概要
ピリュラー(Φιλύρα、「菩提樹」)は、ギリシア神話に現れる三人の女性の名である。
同名の女性たち
オーケアニスの一人。 クロノスとのあいだに賢いケンタウロスケイローンを産んだ。クロノスは妻レアーに見つからぬよう馬の姿をとって交わり、そのために生まれた子は半人半馬になったとされる。生まれた子の姿に驚いた母は、育てることを拒んで菩提樹に変えてくれるよう神々に願ったという。名が菩提樹を意味するのは、この結末による。
ナウプリオスの妻。 パラメーデース、オイアクス、ナウシメドーンの父ナウプリオスの妻の名として伝わる。神話記述者アポロドーロスは、トロイア詩群の初期の叙事詩『帰還』においてナウプリオスの妻がピリュラーであったと報告し、ケルコープスによればヘーシオネー、「悲劇詩人たち」によればクリュメネーであったと記す。
河神アーソーポスの娘。 ペーネイオスとのあいだにヒュプセウスを産んだ。ただしラピテース王の母はナーイスあるいはクレウーサとする伝えもある。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
第一のピリュラーの物語が、この名の由来を説明する。菩提樹への変身は、望まぬ出産の結末として語られる。追われて植物に変わるダプネーとは異なり、ここでは産んだ子を拒むことが変身の理由である。
ギリシアの変身譚において、樹木への変化はしばしば拒絶の帰結として現れる。人であることをやめることによってのみ、状況から離れられるという構造である。
関わる神格・伝承
第一のピリュラーの子はケイローン。アキレウス、イアーソーン、アスクレーピオスらを育てたこのケンタウロスが、他のケンタウロスと異なり賢明であるのは、クロノスの子であるためだと説明される。
第二のピリュラーは、ナウプリオスの妻の名が三通り伝わることの一つにあたる。同じ人物の名が資料によって異なる例である。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。ケイローンの母として言及される程度である。
しかしケンタウロス族のうちケイローンだけが賢く不死であるという設定は、この出生の特殊性によって説明されている。他のケンタウロスがイクシーオーンと雲ネペレーの子孫であるのに対し、ケイローンはティーターンの子である。同じ姿をした二つの系統が、まったく別の性格を与えられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。