パラメーデース
パラメデス · パラメーデス · Palamedes
オデュッセウスの狂気の偽装を見破ったエウボイアの王子。賽・数・文字の発明者とされる。恨みを買い、偽の証拠によって石打ちの刑に処された。
解説
概要
パラメーデース(Παλαμήδης、「手先の器用な者」「工夫する者」)は、ギリシア神話のエウボイアの王子である。王ナウプリオスの子にあたる。
トロイア遠征にギリシア方として加わった。賽、数、そして文字の発明者とされる。
神話・物語
一部の伝承ではトロイア戦争の主要人物でありながら、ホメーロス『イーリアス』には名が現れない。
最もよく知られるのが、オデュッセウスの狂気を見破った挿話である。
パリスがヘレネーをトロイアへ連れ去ったのち、アガメムノーンは各地の王に使者を送り、メネラーオスの婚姻を守るという誓いを想起させた。オデュッセウスは戦に行きたくなかったため、狂気を装う。驢馬と牛を同じ犂につないで畑を耕したのである。歩調の合わない二頭では、畝がまっすぐにならない。
パラメーデースはこれを見破った。幼子テーレマコスを犂の前に置いたのである。オデュッセウスは犂を逸らして子を避け、正気であることが露見した。
この恨みが、のちの復讐を招く。オデュッセウスは、パラメーデースがトロイア方から賄賂を受け取ったと見せかける偽の証拠を仕込み、これを告発した。パラメーデースは石打ちの刑に処される。
父ナウプリオスはこの死に憤り、ギリシア軍の帰還に際して岬に偽の灯火を掲げ、多くの船を難破させたと伝えられる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アントニオ・カノーヴァの彫像《パラメーデース》である(ヴィッラ・カルロッタ蔵)。古代の図像ではない。
この人物を規定するのは、発明である。賽、数、文字——いずれも記号を扱う技術であり、名の「工夫する者」に対応する。
そして機知が身を滅ぼすという構図が、この物語の眼目である。オデュッセウスの偽装を見破ったのは、同じく機知に長けた者であった。二人の知恵者が競い、一方が他方を陥れる。ギリシアの英雄譚において、狡知は必ずしも報われない。
系譜と関係
父はナウプリオス、母はクリュメネー、ヘーシオネー、あるいはピリュラーと伝えられる。兄弟にオイアクスとナウシメドーンがいる。
対立するのはオデュッセウス。父ナウプリオスの復讐が、アガメムノーンをはじめとするギリシア諸将の帰還を悲惨なものにしたとされる。
文化的足跡
アイスキュロス、ソポクレース、エウリピデースの三大悲劇詩人がいずれもこの人物を主題とする劇を書いたが、いずれも失われた。ホメーロスに現れない人物が、悲劇においては繰り返し扱われたことになる。
プラトーン『弁明』では、ソクラテスが冥界で会いたい者としてこの名を挙げる。不当な裁きによって死んだ者として、自らの境遇に重ねているのである。
日本語圏でこの人物が紹介されることはまずない。しかし文字の発明者とされる人物が、偽造された文書によって死ぬという筋は、それ自体が皮肉な構成をなしている。