ペルシプナイ
ペルシプネイ · フェルスプナイ · phersipnai
エトルリアの冥界の后。名はギリシアのペルセポネーから借りたもので、アイタと並んで玉座に着く姿で描かれる。
解説
概要
ペルシプナイ(エトルリア語 phersipnai、ペルシプネイ、のちフェルスプナイとも)は、エトルリア神話の冥界の后である。名はギリシアのペルセポネーから借りたもので、ローマのプロセルピナにも対応する。夫は冥界を治めるアイタ。二柱が冥界を統べ、その門をマントゥスとマニアが守るとされた。
神話・物語
固有の物語は伝わらない。名も筋もギリシアから入ったものであり、略奪の場面がエトルリア美術にも現れる。
この女神の輪郭は、アイタと対で描かれるという一点にほぼ尽きる。エトルリアの冥界像において、主神の夫婦は場面を統べる枠として置かれ、実際に動くのはカルンやウァントといった従者たちであった。ギリシアの冥界がハーデースとペルセポネーの物語を中心に据えるのに対し、エトルリアの図像は玉座の二柱を背景に退かせている。
図像と象徴
タルクィニアの「オルクスの墓」第二室の壁画では、アイタとともに行列を率いる姿が描かれ、その頭上に名が銘記されている。オルヴィエートのゴリーニ墓の前4世紀中葉の壁画にも、玉座に着く二柱が現れる。本項に掲げたのは、そのゴリーニ墓の図を写した線描である。壁画そのものの保存状態が良くないため、19世紀以来の模写図が図像研究の基礎となってきた。
姿の特徴として、蛇を髪に絡めた表現が指摘される。ギリシアのペルセポネー像には見られないもので、エトルリアの冥界の存在に共通する属性——カルンの腕の蛇、トゥクルカの蛇の髪——と連なる。名を借りながら、姿は土地のものに寄せられている。
系譜と関係
夫はアイタ。ギリシアの伝承ではデーメーテールの娘だが、エトルリアの資料にその母娘関係を示すものはない。母娘の祭儀こそがギリシアのエレウシースの秘儀とローマのケレース崇拝の核であったことを思えば、この不在は小さくない。エトルリアはこの女神から、冥界の后という位置だけを取り出したことになる。
冥界を統べる二柱としての描かれ方は、ローマのディス・パテルとプロセルピナの対にも受け継がれた。もっともローマ側の祭祀は、ギリシアから直接導入された母娘の祭儀と結びついており、エトルリアを経由したものではない。
文化的足跡
エトルリアの墓室に描かれた冥界の宮廷は、19世紀以来、古代地中海の死後観を伝える資料として繰り返し参照されてきた。玉座の后という図柄は、キリスト教時代の地獄図像がしばしば冥界の王を単独で描くのとは対照的である。夫婦で冥界を統べるという構図は、ギリシア・エトルリア・ローマに共通しながら、後世には受け継がれなかった。