オーリーオーン
オリオン · オーアリーオーン
ギリシア神話の巨人の狩人。海神ポセイドーンの子とされ、絶世の美男で並外れた狩の腕を誇った。アルテミスや大蠍をめぐる異伝の末に死に、天に上げられて冬空のオリオン座となった。
解説
概要
オーリーオーン(Ὠρίων / Orion)は、ギリシア神話に登場する巨人の狩人である。並外れた美貌と狩猟の技で知られ、その生涯は複数の相容れない伝承として断片的に伝わる。神ではなく英雄・巨人に分類されるが、死後に天へ上げられ、冬の夜空にひときわ輝くオリオン座となった。ホメーロスの昔から星座として言及され、狩人が愛犬を連れて天を駆ける姿は、古代人にとって季節をはかる暦の指標でもあった。
神話・物語
出生には二系統の異伝がある。もっとも一般的なのは海神ポセイドーンを父とする説で、母はミーノース王の娘エウリュアレーとされ、父から海上を歩む力を受け継いだという。もう一つは、ゼウス・ヘルメース・ポセイドーンの三神がタナグラの老人ヒュリエウスの歓待を受け、返礼に牛皮へ精を注いで地に埋め、十月の後にオーリーオーンが生まれ出たという奇譚である(名を尿 οὖρον に掛けた民間語源譚)。
キオス島では王女メロペーに乱暴を働き、王オイノピオーンに盲いにされる。だがヘーパイストスの従者ケダリオーンを肩に乗せて東へ向かい、日の出の光——太陽神ヘーリオス(一説にアスクレーピオス)——によって視力を回復したという。
図像と象徴
古代の単独の彫像は乏しく、オーリーオーンの姿はもっぱら天球図のうえに描き継がれてきた。棍棒あるいは剣を振りかざし、獅子の毛皮または盾を構える狩人として、足元に愛犬たる大犬座(シリウス)を伴い、頭上のプレイアデス(すばる)を追う構図が定型である。ヨハン・バイエルの星図『ウラノメトリア』(1603年)に刻まれたオーリーオーンは、三つ星の帯を腰に据えたこの狩人像の完成された一例で、神話の人物と天の星群とを一枚に重ねてみせる。天に上げられた者が星座となるこの主題はカタステリスモスと呼ばれる。
系譜と関係
狩りをめぐって月と狩猟の女神アルテミスと結ばれるが、その関係と死には錯綜した異伝がある。ホメーロス『オデュッセイア』は、暁の女神エーオースに愛されたオーリーオーンをアルテミスが射たと伝える。ヒュギーヌスは、アポローンの奸計に乗せられたアルテミスが海上の的を誤射して恋人を死なせたと語る。別伝では、地母神ガイアが放った大蠍に刺されて果てたとされ、その蠍もまた蠍座となって、天でオーリーオーンが沈むと入れ替わりに昇る。役割の上では、狩猟の英雄——狩猟神の系譜に連なる存在である。
文化的足跡
オリオン座は世界各地で狩人や巨人の姿に見立てられ、日本では三つ星を並べた姿から「鼓星(つづみぼし)」とも呼ばれた。西洋ではテニスンやホプキンズが冬の夜空の王者としてオーリーオーンを歌い、現代の天文文化においても冬の星座の代表として親しまれている。狩人が星となる物語は、天体観測と神話とが分かちがたく結びついていた古代の世界観を、いまに伝えている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。