タロース
タロス · タローン
クレータ島を守った青銅の人。島を一日三度めぐり船に岩を投げた。体内を貫く一筋の血管の栓を抜かれ、神々の血を流し尽くして倒れた。
解説
概要
タロース(Τάλως / Talos)は、クレータ島を守った青銅の人である。島を一日に三度めぐり、近づく船に岩を投げつけた。全身が金属でできており、体内をただ一筋の血管が首から踝まで貫く。その端は青銅の釘で塞がれていた。
しばしば巨人と紹介されるが、古代の資料で明確に巨体と述べたものはない。アポロニオスは倒れる姿を伐り倒される大きな松にたとえており、そこから巨大さが読み取られてきた。神話に現れる自動機械の最も早い例の一つとして、古代から近代まで繰り返し参照されてきた存在である。
登場する物語
出自の伝えは分かれる。アポロニオス『アルゴナウティカ』は、彼を「青銅の種族」の生き残りとする。トネリコの木から生まれ、ヘーシオドスが五つの時代の三番目に置いたあの人類である。偽アポロドーロスはこの説と並べて、ヘーパイストスがミーノースに与えたとする説も記す。さらに姿についても、青銅の人ではなく牡牛であったという異伝を挙げている。日本語の資料にはダイダロスの作とするものもあるが、これは同名の甥との混同を含む後代の整理である。
役目は島の警備であった。ゼウスがエウローペーに与えたとも、ヘーパイストスがミーノースに贈ったとも伝えられる。近づく者があれば身体を赤熱させ、抱きすくめて焼いたという。
金羊毛を得て帰るアルゴナウタイの船がクレータに近づくと、タロースは岩を投げて寄せつけなかった。ここでメーデイアが名乗り出る。この者を倒せるのは自分だけだ、と。彼女は船の上から死の女霊ケーレスを呼び、タロースの踝を傷つけさせた。神々の血イーコールが流れ出し、青銅の人は倒れる。
偽アポロドーロスはさらに二つの異伝を伝える。メーデイアが薬で狂わせたとも、不死にしてやると偽って踝の釘を抜いたともいう。三つ目の説では、アルゴナウタイの一人ポイアースが踝を射抜いた。
図像と象徴
図像は二系統に分かれる。一つは貨幣である。クレータ島パイストスの銀貨(前300/280〜270年頃)は、翼をもち石を構える裸の青年としてタロースを打ち出す。都市が自らの守護者として彼を掲げていたことがわかる。
もう一つが壺絵で、いずれも死の場面を扱う。前400年頃のクラーテール三点が知られ、そのうちルーヴォ出土の赤絵ヴォルート・クラーテール(イアッタ国立考古博物館)は「タロースの画家」の名の由来となった。ここでタロースだけが白で塗られ、褐色と黄色で細部が描き込まれる。他の人物と異なる色を与えることで、材質の違いが表現されている。倒れかかる彼を双子神ディオスクーロイが支え、左手には鉢を持つメーデイアが立つ。
モンテサルキオ出土のクラーテールとスピーナ出土の断片も同じ構図をとり、踝のそばに小さな有翼の男の姿が添えられる。死の神タナトスと解されている。武器で討たれるのではなく、栓が抜かれて息絶えるという最期が、図像でも一貫して選ばれた。
関わる伝承
系譜をもたない。作られた者であり、生まれた者ではない。マイナーな異伝ではクレースの子でヘーパイストスの父ともされるが、主流の伝えのなかでは血縁の網の外に置かれている。
弱点が踝にあるという設定は、アキレウスの踵と並べて語られてきた。ただしタロースの場合、そこは傷の跡ではなく、鋳造上の栓である。生き物の急所ではなく、器物の継ぎ目が弱点になっている。青銅の人という設定に忠実な造形といえる。
近代の研究は、この物語を青銅鋳造の記憶と結びつけて論じてきた。鋳型に注いだ金属を抜くための湯口と、その栓を抜けば中身が流れ出るという構造が、そのまま神話の急所になっているという見方である。
文化的足跡
自動人形(オートマトン)の系譜において、タロースはしばしば最古の一例として引かれる。ヘーパイストスが作ったという黄金の侍女や自走する三脚台と並べられ、ロボットの神話的前史を語る文脈で言及されることが多い。
現代でもこの名は機械に与えられ続けている。アメリカ海軍の艦対空ミサイル「タロス」、米軍が開発を進めた強化外骨格 TALOS などがその例である。映画では、レイ・ハリーハウゼンが《アルゴ探険隊の大冒険》(1963年)でストップモーションによる青銅巨人を作り上げ、この姿が以後の視覚的な定型となった。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。