マンタラー
マンタラ · カイケーイーの侍女
アヨーディヤーの妃カイケーイーに仕える侍女。ラーマの即位を妨げるよう主人に吹き込み、追放と父王の死を招いた張本人とされる。
解説
概要
マンタラー(Mantharā / मंथरा)は、叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する女性で、アヨーディヤー王ダシャラタの妃カイケーイーに仕える侍女である。背に瘤をもつ女として描かれる。ラーマの即位が定まったとき、主人にラーマへの不信を吹き込み、かつて王から授かった二つの願いを行使させた。物語の発端をつくった張本人とされる。
神話・物語
もとは孤児で、少女の頃からカイケーイーに養われて育った。主人の実家ケーカヤから伴われてアヨーディヤーへ来た者とも語られ、宮廷における主従の孤立を体現する存在でもある。
ラーマの即位が定まると、彼女はカイケーイーのもとへ走った。彼女の説くところでは、ラーマが王となれば第一妃カウサリヤーが王母となり、カイケーイーは宮廷での地位を失う。子バラタは殺されるか追放されるであろう——そう告げて、忘れられていた二つの願いを思い出させ、バラタの即位とラーマの十四年の追放を求めるよう助言した。主人は喜んでこれに従い、王は妃を翻意させられぬまま倒れ、まもなく崩御する。
叙事詩は彼女の言葉を単なる讒言としては描いていない。第三妃とその子が置かれた立場は現実に危ういものであり、彼女の指摘は宮廷の力関係を正確に言い当てている。それが破局を招いたことと、指摘そのものが誤りであったこととは別である。
追放と王の死ののち、バラタに付き従っていたシャトルグナが帰国して彼女を懲らしめたと伝えられる。バラタが押しとどめたとする伝えもある。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるのは、カイケーイーの耳もとで語る場面である。象徴となるのは背の瘤で、外見の歪みを心の歪みの徴として描く手法の例として、しばしば批判的に論じられる。
系譜と関係
孤児として育ち、系譜は語られない。主人はカイケーイー、その子バラタとは幼少から関わりがあった。彼女の一言が、ダシャラタの死、ラーマの追放、そしてシーターの略奪からラーヴァナとの戦いに至るまでの全体を動かす。
文化的足跡
『マハーバーラタ』は彼女の前世に触れ、ドゥンドゥビーというガンダルヴァの女であったとする。ブラフマーの命によって人間界に転生し、人々のあいだに敵意をかき立てる役を負わされたのだという。この説明を採るなら、彼女の行いは個人の悪意ではなく神々の計画の一部ということになる。ラーマが森へ行かねばラーヴァナは討たれず、ヴィシュヌの化身としての目的は果たされない。破局を導く者に前世の使命を与えるという構成は、叙事詩がしばしば用いる説明の型である。
近現代の再話では、身体的な特徴と悪役性を結びつける造形そのものが問われるようになった。彼女を単なる悪意の化身としてではなく、主人の立場を案じた忠実な侍女として描く試みも現れている。