イヒ
イヒ · イヒィ · Ihy
ハトホルの子で、音楽と歓喜を司る子どもの神。シストラムを手にし、指を口に当てる裸の子として描かれる。デンデラでハトホル、エドフのホルスとともに祀られ、誕生殿でその誕生が祝われた。
解説
概要
イヒ(jḥy / Ihy)は、音楽と歓喜を司る古代エジプトの子どもの神である。ハトホルの子とされ、母の祭儀に欠かせない楽器シストラムを手に、デンデラのハトホル神殿でハトホル、エドフのホルスとともに祀られた。
神話・物語
名は古王国の資料から見え、「シストラムを奏でる者」の意とも、ハトホルが牝牛であることに因む「仔牛」の意とも解される。称号「ハトホルの唯一の者」は、母との結びつきを端的に示す。
音楽の神であると同時に、来世の審判に関わる神として葬祭文書に現れることもある。また昇る太陽と結びつけられ、母の胎から毎朝生まれる若い太陽に重ねられた。
デンデラでは、子神の誕生を祝う誕生殿(マンミシ)が神殿に付属する。第30王朝のネクタネボ1世がイヒのために建てたマンミシの壁には、神の受胎から誕生、授乳までの場面が刻まれ、その誕生は毎年祭として祝われた。
図像と象徴
最もよく知られるのは、裸の男児がシストラムと首飾りメナトを持つ姿である。巻き毛の横髪(子どもの房)を垂らし、指を口に当てる姿もとる。これはエジプト美術で幼い子を表す定型で、グレコ・ローマン期のイヒは、同じ定型で描かれる子どものホルス(ハルポクラテス)とよく似た姿をとる。
系譜と関係
母はハトホルが通例で、イシス・セクメト・ネイトとする伝えもある。父はエドフのホルスで、太陽神ラーを父とすることもある。デンデラとエドフでは、ハトホルとホルスの子としてもう一柱ハルソムトゥス(「二国を統べるホルス」)が並び、イヒはこれと組になって現れる。
文化的足跡
デンデラ神殿の二つのマンミシ、とりわけローマ期のものは保存がよく、神の誕生を祝うエジプトの祭祀を伝える代表的な遺構として訪れる人が多い。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。