イドモーン
イドモン · Idmon
アルゴナウタイに加わった予言者。自らの死を前もって知りながら航海に参加し、猪に突き殺された。
解説
概要
イドモーン(Ἴδμων / Idmōn)は、アルゴナウタイに加わった予言者である。名は「知る者」を意味する。予言者メラムプースの家系に属し、真の父はアポローン、母をキューレーネーあるいはアステリアーとする伝えがある。
彼を特徴づけるのは一点である。鳥の前兆によって自分がこの航海で死ぬと知りながら、あえて船に乗った。予言者が自らの死を見通す例は少なくないが、それを避けようとせず、名誉のために引き受けたと明言される例は珍しい。
神話・物語
アルゴー船がマリアンデューノイ人の国に立ち寄ったとき、一行はその地の王リュコスに歓待されていた。リュコスの敵であったベブリュケス人の王アミュコスを倒したためである。その滞在中、河の堤を歩いていた——あるいは家畜の飼葉を刈りに出た——彼は、葦のなかから現れた猪に太腿を突かれて死んだ。
ロドスのアポローニオス『アルゴナウティカ』は、この死を航海の途上に置かれた二つの喪の一つとして描く。もう一人は舵取りのティーピュス(ティーピュース)で、同じ地で病死した。予言者と舵取りを同時に失うという構成であり、進路を知る者を二人とも欠いた船が、それでもコルキスへ向かうという場面になっている。
無事にコルキスへ到達したとする別伝もある。
彼の家系は予言者を出し続けた。子テストールの子がカルカースであり、トロイア戦争のギリシア方の予言者はこの血筋から出ている。アルゴー船の予言者からトロイアの予言者へという接続は、二つの大遠征を系譜でつなぐ働きをしている。
図像と象徴
彼を名指しできる古代の作例は知られていない。予言も猪による死も、他の英雄の場面に埋もれる主題であり、単独で図像になることはなかった。本ページに主画像を置いていないのはこのためである。
近世以降、フィレンツェで催された模擬海戦の版画などに「アポローンに導かれるイドモーンとモプソス」という主題が現れる。アルゴナウタイの予言者二人を組にする構図であり、古代の伝承にはない近世の造形である。
系譜と関係
父はアポローン、名目上の父はアバース——予言者メラムプースの子であり、リュンケウスの子アバースとは同名の別人である。母はキューレーネーあるいはアステリアー。兄弟にコイラノスとリューシマケー。子テストール、その子がカルカース。
なお、アイギュプトスの子の一人、およびアラクネーの父も同名の別人である。
文化的足跡
自らの死を知りながら遠征に加わるという筋は、アムピアラーオスがテーバイ攻めに出る場面と同じ型をとる。予言者が自分だけは救えないという主題は、ギリシアの予言者像の核をなすものであり、この二人がその代表例として並べられる。