リュンケウス
リュンケウス · リュンケウス(アイギュプトスの子) · Lynkeus
ギリシア神話の人物。アイギュプトスの五十人の息子のうち、ただ一人だけ妻に殺されなかった者。のちにアルゴス王となる。
解説
概要
リュンケウス(Λυγκεύς / Lynkeus)は、エジプト王アイギュプトスの五十人の息子の一人である。ダナオスの娘たちと兄弟そろって結婚した夜、四十九人が妻に殺されるなか、彼だけが命を助けられた。のちにダナオスの後を継いでアルゴスの王となる。
なお、メッセーネー王アパレウスの子リュンケウスは同名の別人である。地中まで見通す視力で知られ、アルゴナウタイに加わったこちらとは、系譜も物語も重ならない。
神話・物語
彼を助けたのは妻ヒュペルムネーストラーである。理由は伝承によって異なり、彼が彼女の処女を尊重したからだとも、オウィディウス『ヘーローイデス』のように、彼女が何度も短刀を構えながらどうしても振り下ろせず、夜の明ける前に夫を起こして逃がしたのだともいう。
逃れた先はアルゴス近郊のリュルケイアとされる。パウサニアースによれば、二人は互いの無事を烽火で知らせ合う約束を交わしており、リュンケウスはリュルケイアに着いて火を上げ、ヒュペルムネーストラーもまたアルゴスのアクロポリス、ラーリサから火を返した。アルゴスで毎年行われた烽火の祭は、この一夜に由来すると説明される。カール・ケレーニイは、彼の名はもともとリュルケウス(Lyrkeus)で、この地名と結びついていたのだろうと論じた。
その後の展開は資料で割れる。ダナオスが娘を訴えた裁判に敗れて二人の結婚を認めたとする穏当な版がある一方、リュンケウスがダナオスを殺して王位を奪い、四十九人の義姉妹をも討ったとする版もある。夫殺しへの報復として筋を閉じるか、和解として閉じるかで、物語の性格は大きく変わる。
図像と象徴
古代の作例は乏しく、名を伴う確実な図像は知られていない。この物語が絵になるのは、殺す娘たちか、罰を受ける娘たちの側であって、生き延びた夫ではなかった。
本ページの主画像は、フランチェスコ・クサント・アヴェッリの絵付けによるイタリアのマヨリカ皿(1537年、ボルティモアのウォルターズ美術館)で、ヒュペルムネーストラーの見守るなかリュンケウスが舅の王冠を手に取る場面を描く。ルネサンスのマヨリカは古典の逸話を器面に載せる工芸であり、ここでも「殺害」ではなく「王位の継承」という和解の側の結末が選ばれている。
系譜と関係
父アイギュプトス、母アルギュピュエー。同母の兄弟にプローテウスがいる。妻はダナオスの長女ヒュペルムネーストラー、子はアバース。
アバースの子孫からアクリシオス、ダナエー、そしてペルセウスが出る。アルゴスの王統は、四十九の殺害を免れたこの一組の夫婦を通じて続いていくことになる。
文化的足跡
ゲーテ『ファウスト』第二部第三幕には、塔守リュンケウスが登場する。こちらは鋭い目のリュンケウス——アパレウスの子の方——に由来する名で、同名が二系統に分かれて後世に受け継がれた例である。