アラクネー
アラクネ · アラクネー · Arachne
リュディアの機織りの名手で、アテーナーに競技を挑んだ。神々が人間を欺いた場面を完璧に織り上げたため、女神の怒りを買って梭で打たれ、首を吊ったのち蜘蛛に変えられた。蛛形綱の名の由来。
解説
概要
アラクネー(Ἀράχνη / Arachne)は、機織りの腕を誇ってアテーナーに勝負を挑み、蜘蛛に変えられたリューディアの娘である。名はそのままギリシア語の「蜘蛛」を意味する。
物語をまとまった形で伝えるのは、ラテン語で書かれたオウィディウス『変身物語』第6巻である。そのため原典では女神の名がミネルウァとなっているが、本項ではギリシアの名で記す。
神話・物語
アラクネーはコロポーンの染物師イドモーンの娘で、身分の低い家の出ながら、その織物を見ようとニュンペーたちまでが集まるほどの腕をもっていた。技を女神から授かったのだろうと言われると、彼女はそれを否み、女神と競っても負けないと言い放った。
老婆の姿で現れたアテーナーは、人間どうしで腕を誇るのはよいが神には譲れと諭した。アラクネーが聞き入れないため、女神は正体を明かし、二人は並んで機に向かった。
アテーナーは、アテーナイの守護権をめぐってポセイドーンと争い勝った場面を中央に置き、四隅には神々に逆らって罰せられた人間の例を織り込んだ。これに対してアラクネーは、神々が姿を変えて女たちを欺いた場面を並べた。牡牛となってエウローペーをさらうゼウス、白鳥となってレーダーに近づくゼウス、黄金の雨となってダナエーのもとに降るゼウスなどである。
その出来は女神でさえ瑕を見つけられないものだった。怒ったアテーナーは織物を引き裂き、梭でアラクネーの額を打った。辱めに耐えかねた娘が首を吊ると、女神は彼女を生かしたまま蜘蛛に変え、子孫とともに永久に糸を吊り下げて紡ぐようにした。

図像と象徴
本サイトの主画像は、ルネ=アントワーヌ・ウアス(1645〜1710)の《ミネルウァとアラクネー》(ヴェルサイユ宮殿)である。
古代の図像はほとんど知られず、この物語が美術の主題になるのはオウィディウスが広く読まれた近世以降である。ベラスケスの《織女たち》(1657年頃、プラド美術館)は、前景に糸を紡ぐ女たちを置き、奥の部屋にアテーナーとアラクネーの対決とゼウスがエウローペーをさらうタペストリーを描き込む。職人の労働と神話を一つの画面に重ねた作品として名高い。

系譜と関係
父はイドモーン。母は早くに亡くなったとされ、名は伝わらない。神と技を競って罰せられる人間という点で、マルシュアースの物語と対をなす。
文化的足跡
ダンテ『神曲』煉獄篇は、傲慢の例としてアラクネーを挙げる。蜘蛛を含む節足動物の綱アラクニダ(蛛形綱)は、この名に由来する。