アラクネー
アラクネ · アラクネー · Arachne
リュディアの機織りの名手で、アテーナーに競技を挑んだ。神々が人間を欺いた場面を完璧に織り上げたため、女神の怒りを買って梭で打たれ、首を吊ったのち蜘蛛に変えられた。蛛形綱の名の由来。
解説
概要
アラクネー(Arachne、古代ギリシア語で「蜘蛛」、ラテン語アラーネウスと同源)は、ローマの詩人オウィディウス(前43〜後17年)の版から主として知られる古典神話の物語の主人公である。
叙事詩『変身物語』第6巻において、オウィディウスは、才ある人間アラクネーが女神ミネルウァ(アテーナーのローマの対応者)に機織りの競技を挑んだ次第を語る。
神話・物語
リュディアの染物職人イドモーンの娘アラクネーは、機織りの技で名高く、ニュンペーたちがその技を見に来た。しかし「アテーナーに教わったのだろう」と言われると、「女神と競っても負けない」と答えた。
老婆に化けたアテーナーが忠告したが、アラクネーは退けた。女神は正体を現し、競技が始まった。
アテーナーは、神々に挑んで罰せられた人間たちを織った。四隅にはその実例——神々に変えられた者たち——が織り込まれ、中央にはポセイドーンとの争いに勝つ自らの姿があった。すなわち、挑む者への警告である。
アラクネーは、神々が人間を欺いた場面を織った。ゼウスが牡牛になってエウローペーを、白鳥になってレーダーを、金の雨になってダナエーを犯した場面——神々の非行の目録である。
その出来映えは完璧であった。ミネルウァはアラクネーの才を認めながら、織物が神々を嘲っていることに激怒し、梭で娘を打った。アラクネーは首を吊り、女神はこれを憐れんで(あるいは罰として)蜘蛛に変えた。以後、永遠に糸を紡ぎ続ける。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ルネ=アントワーヌ・ウアス《ミネルウァとアラクネー》である(ヴェルサイユ宮殿)。
技において神に劣らない人間という設定が、この物語を規定する。アラクネーは技で負けたのではない。神々の非行を描いたことで罰せられた。芸術の完成が、内容によって罰を招く。
ベラスケス《織女たち》(1657年頃)は、この物語を主題としながら、前景に働く女たちを描く。労働と神話の重層として、西洋絵画史の重要作である。
関わる神格・伝承
父はイドモーン。アテーナー(ミネルウァ)に罰せられた。
蜘蛛を意味する学名アラクニダ(蛛形綱)は、この名に由来する。
文化的足跡
ダンテ『神曲』煉獄篇は、傲慢の例としてアラクネーを挙げる。芸術家の傲慢という主題が、以後の西洋文学に受け継がれた。