フルングニル
フルングニール · フルングニル · Hrungnir
石でできた巨人。オーディンと馬の速さを競ってアースガルズに乗り込み、酔って神々を脅した。トールと決闘の作法を踏んで戦い、額に槌を受けて倒れる。
解説
概要
フルングニル(Hrungnir)は、北欧神話のヨトゥン。名は「喧嘩する者」「大男」「音を立てる者」などと訳される。頭も心臓も盾も石でできていたとされ、トールと一対一の決闘を約束して戦った唯一の巨人である。乗馬はグルファクシ。
登場する物語
『詩語法』第17章。オーディンがスレイプニルに乗ってヨトゥンヘイムを訪れ、この巨人と出会う。互いの馬をめぐる言い合いになり、オーディンは自分の首を賭けてスレイプニルの速さを主張した。怒ったフルングニルは馬に跨って追い、そのままアースガルズの門をくぐってしまう。
アースは客として迎え、酒を出した。飲むほどに大言が出る。ヴァルハラを担いで巨人の国へ持ち帰る、アースガルズを地に埋め、神々を皆殺しにする、ただしフレイヤとシヴだけは連れて帰る、と。持て余した神々はトールの名を呼んだ。
決闘の約束が交わされる。フルングニルの側は、粘土をこねて作った巨大な人形モックルカールヴィ(「霧の脛」)を介添えに立てた。心臓には牝馬のものが入れられていたため、トールを見ただけで恐れて失禁したという。トールの介添えは従者シャールヴィである。シャールヴィが、トールは地の下から来ると告げたので、フルングニルは石の盾を地に置いてその上に立った。トールは上から、雷を伴って現れる。
投げられた砥石とミョルニルが空中でぶつかり、砥石は砕けた。破片の一つはトールの額に刺さり、抜けなくなる。槌は巨人の頭を砕き、フルングニルは前のめりに倒れて、その脚がトールの首の上に乗った。シャールヴィにも、駆けつけたアース神たちにも脚は動かせず、これを投げのけたのは三歳のマグニだった。
スノッリが依拠した古い資料は、10世紀のスカルド、フヴィンのシューゾールヴが作った『ハウストロング』(14〜20節)である。そこではトールの道行きが強調され、大地は雹に打たれ、天は炎に包まれ、「スヴォルニルの寡婦」——オーディンの妻ヨルズ、すなわち大地——が裂けんばかりになる。ジョン・リンドウは、こうした天変地異の描写が、この決闘の宇宙論的な性格を示すと述べる。シャールヴィもモックルカールヴィも、10世紀の詩には現れない。
図像と象徴
異教期の造形は知られていない。近代の挿絵は、額に砥石を受けたトールと、石の盾の上に立つ巨人という構図をとる。本サイトが掲げるのはルートヴィヒ・ピーチュの一葉(1865年、R・F・ロイシュ『北方の神々の物語』所収)で、手を挙げるトールと、額に砥石を突き立てたまま倒れかかるフルングニルを描く。巨人が丸い盾の上に立っているのは、原典の細部をそのまま写した箇所である。
石でできているという設定が、この巨人の像の中心にある。9世紀のスカルド、ブラギ・ボッダソンは盾を「フルングニルの足裏の葉」と呼び、槌を「フルングニルの頭蓋割り」と呼んだ。盾も頭蓋も、この巨人の身体から詩の語彙になっている。
スノッリは、この巨人の心臓を「三つの角を持つ石」と記す。三つの三角形を組んだ図形(ヴァルクヌート)を近代の研究者が「フルングニルの心臓」と呼ぶことがあるのは、この一句による。ただし図形と記述を結びつける中世の証言はなく、命名は近代のものである。
関わる神格・伝承
乗馬はグルファクシ、介添えはモックルカールヴィ。決闘の相手はトール。
ブラギはこの巨人を「スルーズを盗んだ者」とも呼んでいる。スルーズはトールの娘であり、決闘の動機がもともと娘の略奪だった可能性がある。『ハウストロング』は動機に触れておらず、リンドウはブラギのケニングを手がかりにこの推測を示す。スノッリが伝える「馬の速さの言い争い」は、後代に整えられた筋かもしれない。
比較としてしばしば挙げられるのが、フルリの石の巨人ウッリクンミである。天に届くほど育ち、雷神テシュブに討たれる。ただし両者を結びつける史料上の根拠はなく、話型の類似にとどまる。
文化的足跡
トールの額に残った砥石の破片には、後日談がある。女預言者グロアが呪文で抜こうとしたところ、トールが、彼女の夫アウルヴァンディルを北から運んできたという知らせを口にした。喜んだグロアは呪文を忘れてしまい、破片は抜けないままになった。以後、砥石を床に投げてはならない——投げれば破片が動く——という禁忌が生まれたと『詩語法』は記す。神話が生活上の作法の由来として語られる、数少ない例である。
現代の翻案では、この巨人はトールの好敵手として扱われることが多い。原典に照らせば、正式な決闘の作法を踏んで神と戦った唯一の巨人であり、その意味では敵というより対戦相手である。