モックルカールヴィ
メックルカルフィ · モックルカールビ · Mökkurkálfi
フルングニルとトールの決闘に際し、ヨトゥンたちが粘土で造った巨人。心臓が見つからず牝馬の心臓を入れられ、トールを見て怯え、シャールヴィに討たれた。
解説
概要
モックルカールヴィ(古ノルド語 Mökkurkálfi、メックルカルフィとも)は、北欧神話で粘土から作られた巨人である。
ヨトゥンのフルングニルがトールと決闘する際、ヨトゥンたちがこれを助けるために造った。
神話・物語
『詩語法』が語るところはこうである。
フルングニルとトールの決闘が決まったとき、ヨトゥンたちはフルングニルが敗れれば自分たちの身が危ういと考えた。そこでグリョーティューナガルザルの地に、粘土で巨人を造る。高さ九ラスタ(レスト)、脇の下の広さ三ラスタという巨大なものであった。
しかし心臓が見つからない。やむを得ず牝馬の心臓を入れたが、これは落ち着きがなかった。
トールが到着したとき、モックルカールヴィは恐怖のあまり小便を漏らしたと記される。トールの従者シャールヴィがこれと戦い、討ち取った。フルングニル自身はトールの槌ミョルニルによって倒される。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ルートヴィヒ・ピーチュの図版《トールとフルングニル》(1865年刊)である。決闘の場面を描く。
粘土から人型を造るという主題は、各地の神話に見られる。ただし北欧のこの例が特異なのは、造られた巨人が役に立たないという点である。心臓を欠いたまま作られ、間に合わせに獣の心臓を入れられ、そして戦う前に恐怖で失禁する。
心臓が性格を決めるという発想が、この挿話の前提にある。牝馬の心臓は落ち着きがない——動物の心臓を入れれば、その動物の性質が現れるという理解である。
大きさばかりが巨大で中身の伴わないものという寓意としても読まれてきた。北欧神話には他に例の少ない、笑いを含んだ造形である。
関わる神格・伝承
造ったのはヨトゥンたち、討ったのはシャールヴィ。フルングニルとトールの決闘の物語に属する。
シャールヴィにとっては、この討伐が数少ない自らの功績にあたる。ジョルジュ・デュメジルは、この場面を若者の通過儀礼の反映とみる説を提示した。主人であるトールが本命の敵と戦うあいだ、従者は分身めいた相手と戦って一人前になる、という構図である。
文化的足跡
日本語圏では、フルングニルとトールの決闘の付随的な挿話として言及される程度である。
しかし粘土の巨人という主題は、ユダヤ伝承のゴーレムをはじめ、人が人型を造る物語の系譜に位置づけられる。北欧のこの例では、造ることの失敗が笑いとして語られている点が特徴的である。