スルーズ
スルード · スルッド · スリューズ
トールとシヴの娘。名は「力」を意味する。ドヴェルグのアルヴィースが妻に望んだ娘とされ、ブラギはフルングニルを「スルーズを盗んだ者」と呼ぶ。
解説
概要
スルーズ(Þrúðr)は、北欧神話の登場人物。名は「力」を意味する。トールとシヴの娘で、マグニとモージの姉妹にあたる。
同じ名はヴァルハラでエインヘリャルにエールを注ぐワルキューレの一人としても挙げられており、両者が同一かどうかは決着していない。
登場する物語
固有の物語らしい物語は、一つも完全な形では伝わらない。この名は、断片のなかにだけ現れる。
『詩語法』第4章は、トールを指すケニングとして「スルーズの父」を挙げ、スカルドのエイステイン・ヴァルダソンがこれを用いた例を引く。第21章は母をシヴとする。トールに娘がいたこと自体は、複数のスカルドが前提として詩を作っている。
『古エッダ』の『アルヴィースの言葉』では、ドヴェルグのアルヴィースがトールの娘を妻にもらう約束だと主張する。娘の名は記されないが、スルーズと解するのが通例である。トールは相手の知識を試すと称して、世界ごとの物の呼び名を次々に問い、答えているうちに夜が明けてアルヴィースは石に変わった。娘は一言も発しない。
もう一つの手がかりは、9世紀のスカルド、ブラギ・ボッダソンの『ラグナル頌歌』である。ブラギは巨人フルングニルを「スルーズを盗んだ者」と呼ぶ。ところがこの略奪について語る資料は他にない。スノッリが伝えるトールとフルングニルの決闘の原因はまったく別(馬の速さをめぐる言い争い)であり、10世紀の『ハウストロング』は原因に触れずに戦いだけを描く。
マーガレット・クルーニーズ・ロスは、『ハウストロング』が盾に描かれた二つの場面——巨人スィアチによるイズンの略奪と、トールとフルングニルの戦い——を歌っていることに注目する。どちらも巨人が女神をさらい、失敗し、殺される話であるなら、二つの場面は対をなしていたのではないか、という読みである。エイリーヴル・ゴズルーナルソンの『ソール頌歌』第18節がトールを「スルーズを烈しく恋う者」と呼ぶのも、この線に沿う。
失われた略奪譚があったのか、ケニングだけが独り歩きしたのか。判断の材料は揃っていない。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ローレンツ・フレーリックが1895年に描いた一葉である(K・ギェレロプ『古エッダ神々の歌』所収)。ドヴェルグのアルヴィースが女の腕に腕輪をはめ、女はそれを見て微笑んでいる。『アルヴィースの言葉』の冒頭を絵にしたもので、婚約の場面として描かれている。原典が娘を無言のまま置いているのに対し、19世紀の挿絵は表情を与えた。
象徴として、この名は名詞そのものとして働く。10世紀のエーランド島カールヴィのルーン石碑は、葬られた首長を「スルーズの木」と呼ぶ。人名の言い換えに女神名を使うのはスカルド詩の常法で、スルーズの名は首長を指す場合にも、女性を指す場合にも用いられた。オルム・ステインソールソンが女を歌った詩に「麦芽の桶の守り手スルーズ」という句があり、アンソニー・フォークスはこれを「麦芽箱、あるいはエール容器を扱う者」と解している。
「力」を意味する名が、兄弟のマグニ(「力」)、モージ(「怒り」)と揃っている点も見逃せない。ルドルフ・シメクは、この三人が父トールの性質をそれぞれ体現しているとみる。
系譜と関係
父はトール、母はシヴ。異母の兄弟にマグニとモージがいる。トールの居所スルーズヴァンガル(「スルーズの野」)は、この名を含む。
ワルキューレとしてのスルーズは、『グリームニルの言葉』第36節に、フリスト、ミスト、スケッグョルド、スコグル、ヒルド、フロック、ヘルフィヨトゥルらと並んで挙げられる。トールの娘と同一視する説はあるが、名が「力」という一般的な語である以上、別人である可能性も十分にある。
文化的足跡
この名は、北欧神話の登場人物としてよりも、詩の語彙として広く用いられた。ルーン石碑に首長の呼び名として現れることは、10世紀のスウェーデンでスルーズという名が誰にでも通じる共有財産だったことを示している。
物語の側では、失われた一篇の影だけが残った。「スルーズを盗んだ者」という一語のために、研究者は今も存在しない神話を再構成しようとしている。