グルファクシ
グトルファフシ · グルファクスィ · Gullfaxi
巨人フルングニルが乗った駿馬。名は「金のたてがみ」を意味する。主人がトールに討たれたのち、その脚の下から父を救い出した幼子マグニに与えられた。
解説
概要
グルファクシ(Gullfaxi)は、北欧神話に登場する馬。名は古ノルド語で「金のたてがみ」を意味する。石の巨人フルングニルの乗馬であり、主人がトールに討たれたのち、マグニの手に渡った。
伝わる場面は少ない。しかしその一つがスレイプニルとの競走であり、この馬は北欧神話で二番目に速い馬として位置づけられている。
登場する物語
『詩語法』第17章。オーディンがスレイプニルに乗ってヨトゥンヘイムを訪れ、フルングニルと出会う。巨人がその馬を褒めると、オーディンは、これほどの馬は巨人の国にはいまいと応じた。フルングニルは、自分にはもっと歩幅の広いグルファクシという馬がいると言い返す。オーディンは自分の首を賭けた。
競走になった。スレイプニルが勝ちはしたが差はわずかで、オーディンはこの巨人を締め出せず、フルングニルはアースガルズの門の内へ乗り入れてしまう。北欧神話でも指折りの決闘譚は、馬の速さをめぐる口論から始まっている。
決闘の結末で、倒れたフルングニルの巨大な脚がトールの首の上に乗った。従者シャールヴィにも、駆けつけたアース神たちにも動かせなかったその脚を投げのけたのが、三歳のマグニである。トールは息子に礼を言い、褒美としてフルングニルの馬グルファクシを与えた。そこへオーディンが口を挟む——良い馬を女巨人の子にやるとは何事か、父である自分に寄越すべきだ、と。
物語はここで終わる。この馬がその後どうなったかは伝わらない。
図像と象徴
この馬を描いた図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。フルングニルの決闘を描いた近代の挿絵にも、馬はほとんど現れない。
伝えられているのは、名と、速さと、譲渡の経緯だけである。それでもこの馬が意味を持つのは、北欧神話において馬が主人の格と直結しているためである。スレイプニルはオーディンの馬であり、グルファクシはフルングニルの馬である。二頭の競走は、そのまま主人同士の比べ合いになっている。だからこそ僅差で負けたことが巨人の怒りを買い、その怒りが決闘まで一直線に続く。
「金のたてがみ」という名の造りは、北欧の馬名に共通するものである。昼の馬スキンファクシ(「輝くたてがみ」)、夜の馬フリームファクシ(「霜のたてがみ」)——ノートの乗る後者は、その馬銜から滴る泡が谷の露になるとされた。たてがみの様子で名づけるという流儀のなかに、この馬も並んでいる。
関わる伝承
もとの持ち主はフルングニル、のちの持ち主はマグニ。競走の相手はスレイプニル。
オーディンの異議は、短いが意味が濃い。馬を惜しんだのではなく、女巨人ヤールンサクサの子に与えることを咎めている。トールが巨人の娘とのあいだにもうけた子を認め、父オーディンがそれを渋る——神々と巨人の境界が、家族のあいだで問題になっている場面である。
文化的足跡
近代アイスランドの民話『名馬グトルファフシと名剣グンフィエズル』にも、同じ名の馬が登場する。ヨウン・アウルトナソンが集め、ヨーゼフ・ポエスティオンがドイツ語に訳し、アンドルー・ラングの『深紅の童話集』(1903年)を通じて英語圏に紹介された。神話の馬と直接つながる話ではないが、「金のたてがみ」という名が民話の名馬にも受け継がれていることは分かる。
現代の翻案では、スレイプニルに次ぐ名馬として言及されることが多い。原典が与えた情報は「速い」「金のたてがみ」「巨人の持ち物だった」の三点しかなく、残りは翻案の側が埋めている。