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ハダド
PLATE — 𐎅𐎄
PHOENICIAN · フェニキア・カナン神話
𐎅𐎄

ハダド

ハッドゥ · Haddu · ハッダ

パナムワ1世のハダド巨像(前8世紀、ゲルチン出土、ペルガモン博物館蔵)/撮影: Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg), CC BY-SA 4.0 CC BY-SA 4.0

西セム語圏の天候神。前2500年頃のエブラにすでに名が現れ、レヴァントからメソポタミアへ広がった。ウガリットでは「主」を意味するバアルの称号のもとに語られ、アレッポが最大の祭祀地であった。

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解説

概要

ハダド(ウガリット語 𐎅𐎄 Haddu、アッカド語 Addu)は、西セム語圏の天候神である。名は「雷鳴を轟かす者」と結ぶ語根に由来するとみられ、アラム語の רעמא、ヘブライ語の רַעַם(雷鳴)に対応するアッカド語ラムマーヌも、彼の別称として用いられた。前2500年頃のエブラ文書に「ハッダ」の形で現れ、シリア北部からレヴァント一帯にかけて、天候をつかさどる最も重要な神として祀られた。

アムル人の移動とともにこの神はメソポタミアへ入り、そこでアダドの名を得る。両者は同じ神の東西の形であり、いずれも表語文字 𒀭𒅎(dIM)で表記された。同じ記号はシュメールの天候神イシュクルにも、アナトリアのフルリの天候神テシュブにも当てられており、この文字は特定の神名ではなく「天候神」という職能そのものを指す記号として機能している。

アレッポ(ハラブ)は前2千年紀を通じてこの神の最大の祭祀地であり、その神殿はマリの文書にもたびたび現れる。ダマスカスのアラム王国では王名にベン・ハダド(「ハダドの子」)が繰り返し用いられた。

神話・物語

ウガリットで発見されたバアル叙事詩は、この神を主人公とする物語群である。ただしそこでの呼び名はもっぱら「主」を意味するバアルであり、ハダドの名は並行句のなかで現れる。物語の内容はバアルの項に譲る。

海と戦う天候神という主題は、ウガリットより古いシリアの資料にも見える。前18世紀のマリの書簡には、アレッポのアッドゥ(ハダド)の預言者が王ジムリ・リムに、「海と戦ったときの武器をおまえに与えた」という神の言葉を伝えたと記されている。神が海を打ち負かした武器が、王に授けられるものとして語られている。

メソポタミア側の伝承では、彼はアダドの名で洪水神話に現れ、旱魃と嵐の双方を担う。恵みの雨をもたらす神が同時に国を潰す神でもあるという二面性は、東西いずれの資料にも共通する。

図像と象徴

本サイトが掲げるのは、サムアル(現トルコ南部のジンジルリ)近郊のゲルチンで見つかった玄武岩の巨像である(前8世紀、ベルリン、ペルガモン博物館蔵)。サムアルの王パナムワ1世が建てたもので、胴に刻まれたアラム語の銘文は、王が自らの墓所にこのハダドの像を立てたと記す。銘によって神の名が確かめられる、数少ないハダドの丸彫り像である。

牡牛が聖獣であり、有角の冠を戴いて髭をたくわえた姿で表される。手には棍棒と雷を握る。左手に槍状あるいは樹木状の稲妻を掲げ、右手を振り上げて打ちかかる「打ち下ろす神」の型は、レヴァントの青銅器時代の小像に広く見られる。牡牛の背に立つ構図はメソポタミアのアダド像と共通し、シリアの円筒印章では両者の様式が混じり合う。

系譜と関係

メソポタミアではアダドとしてシャラを妻とするが、アレッポおよびユーフラテス中流域では天候神の妻はヘバトであった。ヘバトはフルリの宗教にも取り込まれ、テシュブの妻とされる。のちアラム語の資料では、この地域でも妻はシャラの名で呼ばれるようになる。

エジプトでは、異国の神セトと結ばれる例が多い一方、アラム語の祈祷文をエジプトの民衆文字で書き写したパピルス・アマースト63には、「ツァフォンのバアル」を「ホルス」と呼ぶ例がある。嵐という要素がエジプトでは異国的なものとみなされたことが、この揺れの背景にあると解されている。ヘレニズム期以降はゼウス・カシオスとして、ローマ帝政期にはユピテル・ドリケヌスとして受け継がれた。「天の主」を意味する称号バアルシャミンは、ハダドにも与えられた。

文化的足跡

『旧約聖書』「列王記下」でナアマンが言及する「リンモンの神殿」は、この神の別称リンモンに由来する。アラム諸国の王名、地名、そして人名のなかにハダドの名は広く残り、西アジアにおける天候神信仰の厚みを示している。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
アダド メソポタミア神話 同一視
古代の文書において東西の天候神は同一の神として扱われた。前2500年頃のエブラの「ハッダ」がメソポタミアで Adad の名を得る経緯が知られる。
バアル フェニキア・カナン神話 同一視
ウガリトのバアル叙事詩において、「主」を意味するバアルの称号はハダドに与えられる。並行句で両名が対をなす。
アダド メソポタミア神話 同源
アッカド語 Adad と西セム語 Haddu/Hadad は同一の語に遡る。いずれも表語文字 dIM で記され、アムル人の移動を介して東西に分岐した形である。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。

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資料

Wikidata
Q682855 — 骨格データの出典
Commons
Baal Hadad — 図像カテゴリ