テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
エリ
PLATE — ELLI
NORÐR · 北欧神話
ELLI

エリ

エッリ · エリ · Elli

ローベルト・エンゲルス画(1919年、R・ヘルツォーク『ゲルマーニエンの神々』所収) PUBLIC DOMAIN

北欧神話で老齢を擬人化した老婆。ウートガルザ・ロキの館でトールと相撲を取り、これに片膝をつかせた。神々もまた老いから逃れられないことを示す存在である。

01

解説

概要

エリ(Elli)は、北欧神話に登場する老婆。名は古ノルド語で「老齢」を意味する普通名詞そのままであり、その正体は老いの擬人化である。ウートガルザ・ロキの館でトールと相撲を取り、これを組み伏せた。

北欧神話でトールに勝った数少ない存在の一つでありながら、登場するのは『ギュルヴィたぶらかし』のこの一場面だけである。

登場する物語

飲み比べで恥をかいたトールが、腹立ちまぎれに、誰か組打ちに出てこいと言い放つ。ウートガルザ・ロキは長椅子を見回して、お前と取り組んで面目を保てる者はここにはいないと答え、それから「わが養い親の老婆エリを呼べ」と言う。この老婆は、トールに劣らず強く見えた男たちを幾人も投げてきたのだと。

現れたのは、年に打たれた一人の老婆だった。トールが強く掴もうとするほど、相手は堅く立つ。やがて老婆のほうが組みにかかると、トールは足元がふらつき、引き合いは激しくなった。ほどなくトールは片膝を地についた。そこでウートガルザ・ロキが止めに入り、これ以上わが家の者に挑む必要はあるまいと告げる。

種明かしは、一行が館を出たあとに来る。あの相撲は大きな驚きだった、と主人は言う。エリを相手に、片膝をついたきりそれ以上倒れなかった者は、これまでにも一人としていない。老いと組み合うほど長く生きた者で、老いに倒されなかった者はいないのだから、と。

つまりトールは負けたのではない。老いを相手に一度しか膝をつかなかったという意味で、この神は勝ちに最も近づいた者だとされている。敗北の場面が、そのまま最大の賛辞になっている。

図像と象徴

老婆の姿以外に、この存在を示す属性はない。持物も獣も伴わず、着ているものの記述さえない。

本サイトが掲げるのは、ローベルト・エンゲルスが1919年に描いた一葉である。片膝を地についたまま相手の腕を掴む髭の神と、その上に立つ痩せた老婆が、荒い線描で捉えられている。背後には館の者たちが影のように並んで見物する。神が下から見上げる構図が、勝敗をそのまま画面の上下に置いている。ローレンツ・フレーリックも1872年に同じ場面を描いた。近代の画家がこの主題を選ぶのは、たいていこの一点——大きな神が小さな老婆に屈む——のためである。

象徴として重要なのは、この老婆が幻術ではないという点である。ウートガルザ・ロキが仕掛けた他の勝負——海に通じた角杯、猫に化けたヨルムンガンド、野火そのものであるロギ、思考そのものであるフギ——は、館を出れば解ける。だが老いだけは、館を出たあとも一行に付いてくる。神々がイズンの林檎を食べ続けなければ若さを保てないという設定も、この点を裏づける。北欧の神は不死ではない。

関わる神格・伝承

呼び出したのはウートガルザ・ロキで、この老婆をおのれの養い親(乳母)と呼ぶ。組んだ相手はトール。同席していたのはロキと従者シャールヴィである。

エリは他のいかなる資料にも現れない。そもそもトールのウートガルズ訪問譚そのものが『スノッリのエッダ』にしか伝わらず、しかもスノッリはこの物語を裏づける古い詩を一つも引用していない。他の箇所では丹念に典拠を挙げる著者が、ここでは挙げない。物語の相当部分がスノッリ自身の構成による可能性が指摘されているのは、そのためである。

老いを人格として立てる発想そのものは、他の体系にも見られる。ギリシアのニュクスの子ゲーラスがそれにあたる。ただしゲーラスが忌むべき力の一つとして系譜に置かれるだけなのに対し、エリは実際に神を投げる。擬人化が物語として機能している点で、この老婆は珍しい例である。

文化的足跡

「老いには勝てない」という着想を、相撲という具体的な形で見せたこの挿話は、後世に繰り返し引かれてきた。近代の北欧神話再話では、ウートガルズ訪問譚のなかでもとりわけ好んで取り上げられる部分である。

日本語では「エッリ」の表記も行われるが、本サイトは日本語版ウィキペディアの記事名に従って「エリ」を採り、別表記は検索の受け皿として保持している。

02

領分・別名

03

資料

Wikidata
Q1283197 — 骨格データの出典
Commons
Elli — 図像カテゴリ