ロギ
ハーロギ · ローギ · Logi
野火を擬人化した巨人。ウートガルザ・ロキの館でロキと早食いを競い、肉も骨も木桶も食い尽くして勝った。名は古ノルド語で「炎」を意味する。
解説
概要
ロギ(Logi)は、北欧神話のヨトゥン。名は古ノルド語で「炎、火」を意味し、その正体は野火そのものである。ウートガルザ・ロキの館でロキと早食いを競い、これを負かした。
ロギとロキ——名の似た二者が食い比べをするという趣向は、写字生の言葉遊びと見るのが通例である。ロキを火と結びつける説は古くからあるが、ロキの名がドイツ語 Lohe(炎)に連なる証拠はない。リヒャルト・ワーグナーが『ニーベルングの指環』で火の半神にローゲ(Loge)の名を与えたことが、この混同を広めた面もある。
登場する物語
『ギュルヴィたぶらかし』第46章。トールの一行がウートガルズの館を訪れると、主人は技比べを持ちかけた。まず名乗り出たロキが、自分より早く食える者はいないと言う。主人は長椅子の端に坐る者を呼んだ。ロギである。
木の桶に肉が満たされ、二人は両端から食い進む。中央で行き合ったとき、ロキは骨を残らず外して肉だけを平らげていた。ロギは肉も骨も食い尽くし、そのうえ桶まで食っていた。勝負はロギの勝ちとされる。
翌朝、館を出た一行に主人が種を明かす。あれは野火だった、と。木の桶ごと燃やし尽くす炎に、食う速さで勝てる者はいない。エリが老いであり、角杯が海であり、灰色の猫が世界蛇であったのと同じく、ロキが競った相手も生き物ではなかった。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。この存在に姿の描写はなく、あるのは食う速さだけである。
象徴として面白いのは、火が「食べる」ものとして描かれている点である。日本語で火が物を「なめる」と言うように、燃焼を摂食として捉える言い回しは各地にあるが、ここではそれが競技の形をとる。器まで食い尽くすという細部が、炎の性質を一語で言い当てている。
古ノルド語の logi は、スカルド詩では「剣」の言い換えとしても用いられた。刃の輝きを炎に見立てる言い方であり、この語が神話の登場人物の名であると同時に、詩の道具でもあったことを示している。
関わる神格・伝承
『ノルウェーはいかに住まわれしか』は、まったく別の系譜を伝える。巨人フォルニョートに三人の息子があり、フレール(またはエーギル)が海を、カーリが風を、ロギが火を支配したという。『詩語法』が挙げる火のケニングに「風とエーギルの兄弟」があるのは、この系譜による。自然の三要素を兄弟として並べる構成であり、ウートガルズの野火と同じ存在かどうかは決められない。
『ヴィーキングの息子ソルステインのサガ』では、ハーロギ(「高き炎」)の名で呼ばれ、ノルウェー北部の王国ハーロガランドの名祖とされる。妻はグロズ、娘はエイサとエイミリャ。いずれも燃えさし・熾火を意味する語であり、一族全体が火の語彙で構成されている。
文化的足跡
ロギの名は、火を指す普通名詞としてそのまま北欧語に残った。神話の登場人物であるより先に、日常の語である。
天文学では、土星の不規則衛星の一つがロゲ(Loge)と名づけられている。ウートガルズの技比べに現れる三つの相手——思考、老い、そして火——のうち、名が天体に残ったのはこの一人である。