バーナースラ
バーナ · ショーニタプラ王 · バリの子
千の腕をもつアスラの王でシヴァの熱心な信者。娘の婚姻をめぐりクリシュナと戦い、腕を失いながらも命を救われている。
解説
概要
バーナースラ(Bāṇāsura / बाणासुर)は、千の腕をもつアスラの王である。ショーニタプラを都とし、シヴァの熱心な信者として知られた。娘ウシャーとアニルッダの婚姻をめぐってクリシュナと戦い、敗れて腕の大半を失いながらも、シヴァの執り成しによって命を救われた。バリの子であり、プラフラーダの家系に連なる。
神話・物語
『バーガヴァタ・プラーナ』第十巻が伝える。彼はシヴァへの苦行によって千の腕と強大な力を得た。あまりに強く戦う相手がないことを嘆いて、自らに匹敵する敵を与えよとシヴァに願ったところ、いずれお前の旗が折れるときにその者が現れるであろうと告げられたという。
娘ウシャーが夢に見た若者を、友人チトラレーカーが行の力によって都へ運んできた。それがヤーダヴァのアニルッダであると知った彼は兵を差し向ける。門の閂を振るって戦う若者を、ついにナーガの縛によって捕らえた。
数か月ののち、クリシュナがバララーマ、プラデュムナとともに軍を率いて都を囲む。彼はシヴァとスカンダの加勢を得て戦った。ハリ(ヴィシュヌ)とハラ(シヴァ)の陣営が正面から衝突する数少ない場面である。クリシュナはシヴァを眠りの武器で退け、スカンダを破り、彼の千の腕を円盤で次々に切り落とした。
そこでシヴァが進み出て、信者の助命を請う。クリシュナはこれを容れ、四本の腕だけを残して命は取らなかった。以後、彼はシヴァの眷属に加えられ、娘と婿を送り出したと語られる。
図像と象徴
千の腕をもつ姿で描かれるのが定型だが、作例は多くない。図像に現れるとすれば、クリシュナに腕を切り落とされる場面である。象徴となるのは折れた旗であり、無敵の力を得た者が敵を求めた結果、その敵が現れるという構図を担っている。
系譜と関係
父はバリ、祖父はヴィローチャナ、曾祖父がプラフラーダである。したがってヒラニヤカシプの家系に連なる。娘はウシャー、その婿がアニルッダで、この婚姻によってアスラとヤーダヴァの家系が結ばれた。大臣クンバーンダの娘がチトラレーカーである。
文化的足跡
アッサム州テズプルは、この戦いの舞台ショーニタプラに比定されてきた。ショーニタは「血」を意味し、戦いの激しさに由来する地名と説明される。アグニガルの丘には、娘を隔てるために築いたとされる火の砦の跡が伝えられる。
ヴィシュヌ派とシヴァ派の陣営が正面から争うという設定は、両派の関係を映すものとしてしばしば論じられてきた。もっとも結末は和解であり、シヴァの請いをクリシュナが容れるという形をとる。敵対する神格の信者を、その神格自身の執り成しによって救うという構図は、後代の宗派間の共存を示す語りとして読まれることが多い。