チトラレーカー
クンバーンダの娘 · 絵に長けた行者
アスラ王の大臣の娘で王女ウシャーの友。絵に長けた行者であり、友が夢に見た相手を描き出して特定してみせた人物である。
解説
概要
チトラレーカー(Citralekhā / चित्रलेखा)は、アスラ王バーナースラの大臣クンバーンダの娘であり、王女ウシャーの友である。名は「絵の線」を意味する。絵に長けた行者として、友が夢に見た相手を描き出して特定し、さらに行の力によってその若者を都へ運んだ。物語を動かす技術をもつ登場人物として、インド説話文学のなかでも珍しい位置を占める。
神話・物語
『バーガヴァタ・プラーナ』第十巻が伝える。ある夜、見も知らぬ若者と結ばれる夢を見たウシャーは、恋に落ちながらも相手が誰かを知る手立てをもたなかった。友である彼女は、絵によってこれを解こうとする。
神々、ガンダルヴァ、シッダ、チャーラナ、ナーガ、そして人に至るまで、あらゆる種族の姿を次々に描いてみせた。ヤーダヴァの一族を描いたとき、ウシャーはクリシュナの孫にあたるアニルッダの像を指す。こうして相手が特定された。
続いて彼女は、ヨーガの力によって夜のうちにドヴァーラカーへ飛び、眠る若者をそのまま寝台ごと運んだ。これによって二人は結ばれるが、露見して若者は捕らえられ、やがてクリシュナの軍が都を囲む戦いへと発展する。
彼女の技によって物語が始まり、その帰結として戦いが起こるという構成になっている。叙事詩の登場人物が武や苦行によって事を動かすなかで、絵と飛行という二つの技によって筋を進める点が特異である。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、絵を広げて友に示す場面である。細密画にはこの一段を描いた作例があり、絵のなかに絵が描かれるという入れ子の構図をとる。象徴となるのは筆と絵そのものである。
系譜と関係
父はバーナースラの大臣クンバーンダ。友はウシャー、その父がバーナースラである。彼女が特定した若者アニルッダは、プラデュムナの子、クリシュナの孫にあたる。
文化的足跡
同じ名は他の文脈にも現れる。天女(アプサラス)の一人としてチトラレーカーの名が挙げられることがあり、混同されやすい。またこの名は、20世紀インドの小説や映画の題としても用いられてきた。
絵によって見たことのない相手を特定するという主題は、後代の詩と演劇に受け継がれた。オリッサやアッサムの民間演劇では、彼女が絵を次々に広げてゆく場面が見せ場となる。描く者が物語を進めるという役どころは、絵画と説話が密接に結びついていた南アジアの伝統を映すものとして論じられてきた。