アムピーオーン
アンピオン · アムピオン · Amphion
ゼウスとアンティオペーの子。竪琴の音で石を動かしてテーバイの城壁を築いた。ニオベーの夫にあたる。
解説
概要
アムピーオーン(Ἀμφίων / Amphiōn)は、ゼウスとアンティオペーの子で、ゼートスと双子の兄弟である。竪琴の名手であり、その音によって石を動かしてテーバイの城壁を築いたと伝えられる。
二人の兄弟は対をなす。彼は音楽と観想を、弟は牧畜と力を代表し、古代の著述家はこの対比を「観想的生活と活動的生活」の議論に用いた。同じ母から生まれた双子に正反対の性格を割り当てる構成は、ヒュプノスとタナトスの型と同じである。
神話・物語
母アンティオペーはテーバイの摂政ニュクテウスの娘であった。ゼウスに愛されて身ごもり、父を恐れてシキュオーンへ逃れる。伯父リュコスに連れ戻される途中、キタイローンの山で双子を産み、二人は羊飼いに拾われて育った。母はリュコスとその妻ディルケーのもとで長く虐待される。
成長した二人は母と再会し、リュコスを討ち、ディルケーを牡牛の角に縛りつけて引きずり殺した。遺体を投げ込んだ泉は、以後ディルケー泉と呼ばれたという。
テーバイの支配者となった二人は城壁を築く。弟が石を担いで運んだのに対し、彼はヘルメースから贈られた竪琴を弾いた。石はひとりでに動いて所定の位置に収まったという。パウサニアースは、テーバイの城壁の石には今も彼の音楽に従った跡があると土地の人が語ったと記している。都市の城壁が音楽によって成るという発想は、アポローンがトロイアの城壁を築いた伝えと対をなす。
彼はタンタロスの娘ニオベーを妻とした。妻が子の数を誇ってレートーを侮ったため、十四人の子はアポローンとアルテミスに射殺される。彼自身も同じ矢に倒れた、あるいは自ら死んだ、あるいはアポローンの神殿を襲おうとして討たれたと伝えられる。城壁を築いた者が、その城壁の内側で一族を失う。
図像と象徴
古代美術が描いたのは、ほぼディルケーの処刑である。本ページの主画像は《ファルネーゼの牡牛》(ナポリ国立考古学博物館 6002)で、ヘレニズム期の原作に基づくローマ期の大理石群像である。牡牛に縛りつけられるディルケーと、それを押さえる双子を一つの岩塊から彫り出した巨大な作例であり、古代彫刻のなかでも最大級の規模をもつ。近世に大幅な修復が施されている。
竪琴で城壁を築く場面は、古代の図像にほとんど現れない。動かない石が動くという主題が、静止画では成立しにくかったためとみられる。
系譜と関係
父ゼウス、母アンティオペー。双子の弟ゼートス。妻ニオベー、子はニオビダイと総称される七男七女で、ほぼ全員が射殺された。
生き残った娘クローリスはピュロス王ネーレウスの妻となり、その子がトロイア戦争の老将ネストールである。
文化的足跡
音楽が石を動かすという主題は、オルペウスの歌が獣や木を動かす話と並んで、古代における音楽の力の観念を示す代表例として引かれてきた。ホラティウスは詩論のなかで、両者を詩人の力の比喩として並べている。
ゲーテはこの兄弟の対比を、感性と実務という二つの生き方の型として繰り返し用いた。近代の芸術家像の議論において、彼はしばしば「作らずに作る者」として引かれる。