アブンダンティア
コピア · アブンダンティア・ペルペトゥア · アブンディア夫人
豊かさと繁栄を人格化したローマの女神。穀物と貨幣で満たした豊穣の角を携える。固有の神話をほとんど持たず、歴代皇帝の貨幣に繰り返し刻まれた。
解説
概要
アブンダンティア(Abundantia、コピア Copia とも)は、ローマの宗教において、豊かさと繁栄を人格化した女神である。名はラテン語で「豊富」を意味する。
蓄えと投資を守り、大きな買い物を助けるとされた。皇帝が「黄金時代」をもたらす者であることを説く宗教的な宣伝のなかで、徳を体現する神格の一つに数えられる。
美術、祭祀、文学に現れる一方、固有の神話をほとんど持たない。
神話・物語
アウグストゥス期の詩人オウィディウスは、この女神を河神アケローオスの神話に登場させる。ヘルクレースにもぎ取られたアケローオスの角が、ナーイアスたちの手で豊穣の角(コルヌコピア)に変えられ、アブンダンティアに授けられたという。角の由来についてはこれ以外にも複数の起源譚があり、一定しない。
ネロ帝期の貨幣ではケレースと結びつけられ、穀物供給を体現するアンノナと等置された。アンノナと同じく、この女神は港——穀物が都市へ入る場所——のような場において「働く徳」として位置づけられている。
伝わる姿は、穀物と貨幣で満たした豊穣の角を携えるものである。ときにその角から中身を注ぎ出す姿でも表される。麦の穂を持ち、あるいは船の上に立つ図もあるが、船の上に現れることが何を意味するのかは分かっていない。夜のあいだ家々を訪れ、角から贈り物を置いていくとも語られた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ペーテル・パウル・ルーベンスの絵画である。
この女神は貨幣の上に最もよく現れる。トラヤヌス、アントニヌス・ピウス、カラカラ、エラガバルス、セウェルス・アレクサンデル、ゴルディアヌス、デキウス、ガッリエヌス、テトリクス、プロブス、ヌメリアヌス、カリヌス、カルス、ディオクレティアヌス、ガレリウス——歴代の皇帝の貨幣に、その姿が刻まれている。銘文も ABVNDANTIA、ABVNDANTIA PERPETVA、AVGVSTORVM NOSTRORVM などと変化する。
貨幣に繰り返し現れるという事実が、この神格の性格を示している。物語ではなく統治の言語に属する女神であり、皇帝が繁栄を保証しているという主張を、一枚の金属の上で表すために用いられた。
ガリア・アクィタニアのレズーから出たミトラス教の壺には、豊穣の角を持って坐すこの神格が描かれる。ミトラスの行為から生じる豊かさの象徴とされている。
関わる神格・伝承
ガリアの女神ロスメルタが機能上これに相当すると指摘されてきたが、碑文において両者が直接同一視された例はない。フォルトゥーナ、コンコルディア、サルース、セクリタスといった、帝政期の「徳の神格」の一群に属する。
文化的足跡
中世フランスに姿を残した可能性がある。パリ司教ギヨーム・ドーヴェルニュ(1249年没)は、ドミナ・アブンディア(「アブンディア夫人」)に言及し、『薔薇物語』にも「アボンド夫人」として現れる。司教はこの名をアブンダンティアに由来するものとした。夜になると、この夫人たちは供え物の置かれた家に入り、器から飲み食いする。ただし中身は減らない——という伝えである。
古代の徳の神格が、中世の民間信仰のなかで家を訪れる存在に変わっている。豊かさを保証する国家の女神と、夜ごと家を巡る夫人。両者を結ぶのは、減らないという一点である。