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アドーニス
PLATE — ἌΔΩΝΙΣ
HELLAS · ギリシア神話
ἌΔΩΝΙΣ

アドーニス

アドニス · アドーン

Jastrow (2006) PUBLIC DOMAIN

ギリシア神話でアプロディーテーに愛された美青年。猪に突かれて死に、その血からアネモネが咲いた。名も信仰も西アジア由来で、女たちの祭アドーニアで悼まれた。

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解説

概要

アドーニス(Ἄδωνις / Adonis)は、アプロディーテーに愛された美しい青年である。狩りの最中に猪に突かれ、女神の腕のなかで息絶えた。古典古代における男性美の規範であり、名は今日も美青年の代名詞である。

ギリシア神話の人物でありながら、由来はギリシアではない。名は西セム語で「主」を意味するアドーンに遡り、物語の舞台もキュプロス島やフェニキアのビュブロスに置かれる。メソポタミアのイナンナイシュタル)とタンムーズをめぐる神話が、レヴァント経由でギリシアへ入って形を変えたと見るのが現在の大方の理解であり、ギリシア人自身この信仰を東方由来と認識していた。

神話・物語

出生の伝えは複数ある。オウィディウス『変身物語』では、キュプロス王キニュラースの娘ミュラーが、アプロディーテーへの不敬の報いとして実の父への恋を負わされる。乳母の手引きで正体を隠したまま父と交わり、露見して追われた末に没薬(ミュルラ)の木へ姿を変えた。その幹が裂けて生まれたのがアドーニスである。偽アポロドーロス『ギリシア神話』はキニュラースとメタルメーの子とし、同書が引くヘーシオドスはポイニクスとアルペシボイアの子、パニュアシスはアッシュリア王テイアースとその娘スミュルナーの子とする。父の名も国も入れ替わるが、近親相姦と樹木への変身という骨組みは変わらない。

赤子を見つけたアプロディーテーは箱に隠し、冥界のペルセポネーに預けた。箱を開けたペルセポネーもこの子に心を奪われ、返そうとしない。ゼウスの裁定により、アドーニスは一年の三分の一をアプロディーテーと、三分の一をペルセポネーと過ごし、残りは自分の裁量とすると定められた。彼は自分の分もアプロディーテーのもとで過ごしたという。別伝ではムーサのカリオペーが裁き、半年ずつと決めたとする。

死因も一つではない。猪を送ったのは、恋人を独占されたことに憤るアレースとも、アプロディーテーへの意趣返しを果たそうとするアルテミスとも、アポローンとも伝えられる。流れた血からはアネモネが咲いた。後代の説では女神の涙から薔薇が生まれ、あるいは血が薔薇に変じたという。

図像と象徴

古典期のギリシア美術は、アドーニスを死の場面よりも愛の場面で描く。アイソン作の赤絵スクァット・レーキュトス(前410年頃、ルーヴル美術館)では、腰掛けたアプロディーテーに寄り添う若者として現れ、周囲をエロースたちが囲む。髭のない細身の若者として表され、狩人の装備も瀕死の英雄らしさもない。

祭儀そのものを主題とした作例もある。前4世紀半ばのアッティカ赤絵ヒュドリア(大英博物館)はアドーニア祭の場面を写す。女たちが梯子を上って屋根へ器を運び、傍らでエロースとパーンが舞う。神話の一場面ではなく、都市の女たちが実際に営んだ儀礼が主題になっている点で貴重である。

死の主題が前面に出るのはローマ期以降である。石棺浮彫では、猪に突かれて倒れる青年と嘆く女神が組みで彫られ、若くして世を去った者を悼む定型となった。近世の絵画はさらに一場面を加える。オウィディウスの原典で女神は警告を与えるにとどまるが、狩りへ出る青年の腕をつかんで押しとどめる構図が生まれ、ティツィアーノの《ウェヌスとアドーニス》(1554年、プラド美術館)が広く模倣された。

系譜と関係

父はキニュラース、母はミュラー(スミュルナー)とするのがオウィディウス以来の主流。愛人はアプロディーテーとペルセポネーで、地上と地下の二柱に分け持たれる構図そのものが彼の性格を規定している。

東方の神々との関係は、機能の類似にとどまらない。エゼキエル書第8章は、エルサレム神殿の北門で女たちがタンムーズのために泣く光景を記す。アドーニア祭の哭きの儀礼と同型であり、名も祭儀の型もセム系の伝統から受け継がれている。ただし神格が丸ごと等置されたわけではない。タンムーズは牧夫であり冥界へ下る夫であるのに対し、アドーニスはギリシアでは神ではなく、女神に愛された死すべき青年として語られる。フェニキアのバアル信仰との対応を指摘する研究もあるが、地域と時代で内実は異なる。

文化的足跡

現存最古の言及は前7世紀レスボス島のサッポーの断片で、少女たちの合唱が死をどう悼むべきかを女神に尋ねる。前3世紀のテオクリトス『第15歌』は、プトレマイオス朝アレクサンドリアの宮廷で催されたアドーニア祭を、見物に出かけた二人の女のおしゃべりを通して描いた。ビオンの『アドーニス哀歌』は後世の田園挽歌の原型となる。

近世以降、この主題はヨーロッパ文学の常連となる。シェイクスピアの物語詩『ヴィーナスとアドーニス』(1593年)は生前に六版を重ね、当時の彼の著作で最もよく売れた。

19世紀末、J・G・フレイザーは『金枝篇』でアドーニスを「死んで甦る神」の典型と位置づけ、この枠組みは長く比較宗教学を支配した。20世紀半ば以降は類型そのものへの批判が強い。冥界に滞在することは死んで甦ることと同じではなく、古典期のギリシア語文献に復活を明言した記述もないという指摘である。復活に触れる証言はオリゲネスら古代末期に限られ、見解は今も分かれる。

02

領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
タンムーズ メソポタミア神話 同一視
西セム語で「主」を意味するアドンの呼称がギリシアに入りアドーニスとなった。哭きの祭儀もアドニス祭として受け継がれる。神格の全面的等置ではなく、名称と祭儀の型の継承

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

Phoenix
Alphesiboea
Theias
ミュラー (ギリシア神話の人物)
ἌΔΩΝΙΣ
アドーニス
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Alphesiboea
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ミュラー (ギリシア神話の人物)
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資料

Wikidata
Q163920 — 骨格データの出典
Commons
Adonis — 図像カテゴリ