ウプウアウト
ウプウアウト · ウプアウト · ウェプワウェト
「道を開く者」を名とするエジプトのジャッカル神。軍に先立つ斥候であり、行列の先頭の標識であり、死者のために冥界への道を開く者でもある。
解説
概要
ウプウアウト(wp-wꜣwt、「道を開く者」)は、エジプト神話のジャッカルの神である。葬送、戦、王権を領分とし、祭祀の中心は上エジプトのアシュートにあった。ギリシア・ローマ期にはリュコポリス(「狼の都」)と呼ばれた町である。
名がそのまま職能を言い表している。軍に先立って道を切り開く斥候であり、行列の先頭の標識であり、そして死者のために冥界への道を開く者である。
神話・物語
エジプトの神々のなかでも最も早い時期に記録に現れる一柱である。シナイ出土の碑文は、この神がセケムケト王の勝利への「道を開いた」と記す。王と王権に深く結びつき、王の狩りに付き添う相では「神々をも凌ぐ鋭き矢を持つ者」と称された。
王の行列や祭祀の行列では、最初の標識としてこの神が掲げられる。後続のすべての標識に先立って進むという配置そのものが、名の意味の実演になっている。太陽の舟の舳先に立つ姿でも描かれ、そこでは人の頭をとることが多い。
戦、そして戦のもたらす死を通じて、やがてこの神はドゥアトへの道を開く者となった。死者の霊のために冥界へ、そして冥界のなかを通る道を開く。同じアシュートで祀られていたアヌビスと結びつけられ、ついには兄弟とされるに至る。
出自の伝えは割れる。『ピラミッド・テキスト』は、女神ウアジェトの聖所ペル・ヌゥで生まれたと記す。ぎょりゅうの茂みから現れたとする別伝もある。前者は後代の王権称揚のために流布した話とみられ、下エジプトの最も古い女神の聖地で生まれたとすることで、それまで上エジプトの標識でしかなかったこの神が、上下エジプトの統一を象徴する存在になった。
後期の『ピラミッド・テキスト』は、地平から昇った「ラー」としてこの神を呼ぶ。天を「開く者」としての相である。葬送の場では開口の儀式を助け、死者を冥界へ導いた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、エジプト学の慣行に沿って描かれた線図である。灰色がかった体色のジャッカル(あるいは狼)の頭を持つ姿で、アヌビスと区別できるよう描き分けられている。
古い作例では黒いジャッカルとして表される。アビュドスのセティ1世神殿では灰色に見えるが、これは顔料の退色によるものらしい。ごくまれに完全な人の姿をとる。兵士の装いで、メイスと弓を携えた姿もある。
アヌビスとの混同は古代から生じていた。ヒエログリフの記号も、標識に載るジャッカルという形で互いによく似ている。それでも両者の職掌は区別できる。アヌビスが遺体を扱い心臓を量る者であるのに対し、この神は道を開いて先へ進ませる者である。処理する神と、通す神といってよい。
系譜と関係
アヌビスの兄弟とされる。ウアジェトの聖所での誕生譚を通じて、下エジプトの神々とも結びつく。
道を開くという職能は、アケルが地平の門を守るのと対をなす。片方は境界に立って通さない神であり、もう片方は先へ進んで開く神である。エジプトの葬送観において、死後の旅は数多くの門を通過する行程として描かれた。門ごとに神格が配されているのは、そのためである。
文化的足跡
日本語圏では、エジプトのジャッカルといえばアヌビスであり、この神の名はほとんど知られていない。
しかし王朝の初期において、上エジプトの行列の先頭に立っていたのはこちらである。「道を開く者」という名は、軍事の斥候から、行列の作法、そして死後の旅までを一語で貫いている。抽象概念ではなく動作そのものを神格にするという点で、この神はヘカやヘフと同じ発想の産物といえる。