トリシラス
トリシラ · ヴィシュヴァルーパ · Trishiras
「三つの頭を持つ者」を意味する怪物の名。トヴァシュトリの子ヴィシュヴァルーパの別名(インドラに殺されヴリトラ誕生を招く)と、ラーヴァナの子が知られる。
解説
概要
トリシラス(梵 त्रिशिरस् Triśiras、「三つの頭を持つ者」)は、インド神話に現れる怪物の名である。主として二人が知られる。
同名の人物たち
トヴァシュトリの子。 トヴァシュトリ神の息子ヴィシュヴァルーパの別名である。三つの頭を持ち、それぞれでヴェーダを唱え、酒を飲み、四方を見たとされる。表向きは神々の祭司でありながら、密かにアスラに供物を分けていたため、インドラに殺された。
この殺害はバラモン殺しの罪となり、インドラは罪を負う。トヴァシュトリは子の仇としてヴリトラを生み出し、これがインドラとの大きな戦いにつながった。
ラーヴァナの子。 羅刹王ラーヴァナと第二の妃ダニヤマーリニーの子で、アティカーヤ、ナラーンタカ、デーヴァーンタカと兄弟にあたる。異母兄弟にインドラジット、アクシャがいる。
『ラーマーヤナ』において、アヨーディヤーの王子ラーマとの戦争でアンガダ、ニーラ、ハヌマーンと戦った。
王弟クンバカルナの戦死の報せがランカーの王宮に衝撃を与えたとき、トリシラスが父ラーヴァナを励ますことで一同は悲しみから立ち直った。その後、三兄弟および重臣マホーダラ、マハーパールシュヴァとともに出撃する。
頭に三つの尖りのある王冠を戴き、武器を満載した戦車で戦場に現れた。兄弟ナラーンタカがアンガダに討たれると、デーヴァーンタカ、マホーダラとともにアンガダを攻撃したが、ハヌマーンとニーラが駆けつけて戦況が変わる。最後はハヌマーンに討たれた。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
三つの頭という造形が、両者に共通する。第一のトリシラスの場合、三つの頭がそれぞれ別の機能——読誦、飲酒、監視——を担うという設定が、その二重性を表している。表向きの祭司と裏のアスラへの内通が、同じ身体の別々の頭に配されている。
関わる神格・伝承
第一の父はトヴァシュトリ、討ち手はインドラ。この殺害がヴリトラの誕生を招く。第二の父はラーヴァナ、討ち手はハヌマーン。
同名の人物が複数いる例は、インド神話にも多い。当DBではスシェーナ、クリュメノスなども同様に整理してある。
文化的足跡
日本語圏では、インドラのヴリトラ退治の前史として、ヴィシュヴァルーパ殺しが言及されることがある。ただし「トリシラス」という別名まで挙げられることは少ない。
バラモン殺しの罪という主題は、ヴェーダから叙事詩へ受け継がれた重要な観念である。神々の王でさえ、この罪からは自由でない。