トリシラス
トリシラ · ヴィシュヴァルーパ · Trishiras
「三つの頭を持つ者」を意味する怪物の名。トヴァシュトリの子ヴィシュヴァルーパの別名(インドラに殺されヴリトラ誕生を招く)と、ラーヴァナの子が知られる。
解説
概要
トリシラス(梵 त्रिशिरस् Triśiras、「三つの頭を持つ者」)は、インド神話に現れる怪物の名である。主として二人が知られる。
同名の人物たち
神トヴァシュトリの子のトリシラスは、トヴァシュトリの息子ヴィシュヴァルーパの別名である。三つの頭を持ち、一つの頭でヴェーダを唱え、一つで酒を飲み、一つで四方を見渡したとされる。表向きは神々の祭司でありながら、ひそかに阿修羅たちにも供物を分けていたため、インドラに殺された。この殺害はバラモンを殺す罪とされ、インドラはその罪を負うことになった。トヴァシュトリは息子の仇を討つためにヴリトラを生み出し、これがインドラとの大きな戦いへとつながっていった。
羅刹の王ラーヴァナの子のトリシラスは、第二の妃ダニヤマーリニーとのあいだに生まれ、アティカーヤ、ナラーンタカ、デーヴァーンタカのきょうだいにあたる。異母きょうだいにはインドラジットやアクシャがいる。『ラーマーヤナ』では、アヨーディヤーの王子ラーマとの戦争で、アンガダやニーラ、ハヌマーンと戦った。王の弟クンバカルナが戦死したという知らせにランカーの王宮が打ちひしがれたとき、トリシラスが父ラーヴァナを励まし、一同は悲しみから立ち直ったという。そののちトリシラスは、きょうだいたちや重臣のマホーダラ、マハーパールシュヴァとともに出陣した。三つの尖りのある王冠を戴き、武器を満載した戦車で戦場に現れたトリシラスは、きょうだいのナラーンタカがアンガダに討たれると、デーヴァーンタカやマホーダラとともにアンガダを攻めた。しかしハヌマーンとニーラが駆けつけて戦いの流れが変わり、最後はハヌマーンに討たれた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ラーマの軍勢とランカーの王の軍勢の戦いを描いた、1649年から53年のウダイプルの『ラーマーヤナ』写本の一葉(画家サーヒブディーン、大英図書館蔵)である。
三つの頭という造形が、両者に共通する。第一のトリシラスの場合、三つの頭がそれぞれ別の機能——読誦、飲酒、監視——を担うという設定が、その二重性を表している。表向きの祭司と裏のアスラへの内通が、同じ身体の別々の頭に配されている。
関わる神格・伝承
第一の父はトヴァシュトリ、討ち手はインドラ。この殺害がヴリトラの誕生を招く。第二の父はラーヴァナ、討ち手はハヌマーン。
同名の人物が複数いる例は、インド神話にも多い。スシェーナやクリュメノスの項も参照。
文化的足跡
日本語圏では、インドラのヴリトラ退治の前史として、ヴィシュヴァルーパ殺しが言及されることがある。ただし「トリシラス」という別名まで挙げられることは少ない。
バラモン殺しの罪という主題は、ヴェーダから叙事詩へ受け継がれた重要な観念である。神々の王でさえ、この罪からは自由でない。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。