タンニン
タンニン · トゥンナヌ · ティンニーン
カナンとヘブライの海の怪物。ウガリットではヤムの従者トゥンナヌとしてロタンと並べて挙げられ、ヘブライ語のタンニンとレヴィアタンの組に対応する。旧約聖書がカナンの神話を継いでいる最も明瞭な証拠の一つである。
解説
概要
タンニン(ウガリット語ではトゥンナヌ)は、カナンとヘブライの伝承に現れる海の怪物で、混沌と悪の象徴とされた。ウガリットの神話では、海の神ヤムに従う怪物の一つとして、嵐の神バアルや女神アナトに打ち負かされる。旧約聖書にも二十回ほど現れ、ウガリットの神話と旧約聖書とが、同じ怪物を同じ組み合わせで伝えていることは、旧約聖書がカナンの神話を受け継いでいることを示す最もはっきりした証拠の一つとされる。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
ウガリットのトゥンナヌ
ウガリットの『バアル神話』では、女神アナトが自らの武勲を数え上げる場面に、トゥンナヌの名が現れる。アナトは、海の神ヤムを縛り、トゥンナヌに轡をかけ、「曲がりくねる蛇」ロタンを打ち砕いたと誇る。七つの頭を持つ蛇ロタンと並べて挙げられているのである。ヘブライ語では、ロタンはレヴィアタンに、トゥンナヌはタンニンにあたる。ウガリット語とヘブライ語とで、同じ名の怪物が同じ組み合わせで現れているのである。
旧約聖書のタンニン
「タンニン」の語は、旧約聖書に二十回ほど現れる。『創世記』1章21節では、「神は大いなるタンニニムを創造された」と記され、神が造った生き物の一つとされている。混沌の怪物が、ここでは神に造られたものの一つとして位置づけ直されているのである。『出エジプト記』7章では、アロンの杖がタンニンに変わり、ファラオの魔術師たちの杖も同じように変わったが、アロンの杖がそれらを呑み込んだ。この箇所では、「蛇」や「ワニ」と訳される。『エゼキエル書』29章3節では、エジプトの王が「大いなるタンニン」と呼ばれており、ラハブと同じく、エジプトの象徴として用いられている。
広がる語
アラビア語の「ティンニーン」は竜を意味し、天文学ではりゅう座を指す。シリア語にも同じ語根の語がある。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、竜を描いたイスラームの写本の挿絵(ウォルターズ美術館蔵)である。
関わる神格・伝承
ロタン(レヴィアタン)やラハブとともに混沌の怪物の系列をなし、ヤムに従う。
文化的足跡
現代のヘブライ語で「タニン」はワニを意味する。神話の怪物の名が、実在の動物の名になっているのである。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。