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タニト
PLATE — 𐤕𐤍𐤕
PHOENICIAN · フェニキア・カナン神話
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タニト

ティンニト · ティニト · テンネイト

タニトのしるしと三日月を刻むポエニ奉献碑(シルタ〈現コンスタンティーヌ〉出土・前3〜前2世紀/ルーヴル・ランス)/Carole Raddato, CC BY-SA 2.0 CC BY-SA 2.0

古代カルタゴの主要な女神。豊穣と戦いと天空を司り、配偶神バアル・ハンモンをしのぐ主神となった。三角形の胴に円い頭を載せた「タニトのしるし」で知られる。

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解説

概要

タニト(Tanit)またはティンニト(Tinnit)は、古代カルタゴの主要な女神。豊穣・出産・戦い・天空を司り、都市と家を守るとされた。男神バアル・ハンモンの配偶神で、しばしば「バアルの顔」を意味するペネ・バアルの称号とともに呼ばれる。三角形の胴に円い頭を載せ、両腕を水平に広げた独特の記号「タニトのしるし」で表されることで名高い。

神話・物語

まとまった神話は伝わっていない。タニトについて分かるのは、無数の奉献碑と、そこに刻まれた称号と、都市の祭祀からである。

信仰の中心はカルタゴにあった。前6世紀にカルタゴが母市テュロスから距離を置くと、それまでのフェニキアの神アスタルトメルカルトに代わって、北アフリカ土着のタニトとバアル・ハンモンが前面に出る。前5世紀以降、タニトの信仰はバアル・ハンモンと結びつくが、カルタゴにおいてはむしろ女神の側が優勢となり、奉献碑には男神より先にタニトの名が記されることが多い。配偶神をしのぐ主神へと上りつめた点に、この女神の特異さがある。

タニトの名は、ベルベル(タマジグト)語の構造を持つと指摘される。ベルベル語で女性名詞は t で始まり t で終わるものが多く、タニトは「泉」「流れ」を意味するという。1955年、アルジェリアのエル・ホフラで見つかった、ポエニ語をギリシア文字で写した碑文が「ティニト(Thinith)」「テンネイト(Thenneith)」と記しており、実際の発音はティンニトに近かったとみられる。それでも慣用として「タニト」の表記が広く用いられている。

図像と象徴

この女神を最もよく代表するのは、姿ではなく記号である。「タニトのしるし」と呼ばれるこの図像は、下に三角形(あるいは台形)、その上に横棒を渡し、さらに円を載せた形をとる。横棒を腕、円を頭とみて、両手を天に掲げて祈る女性の姿と解する説がある。石碑や墓標、モザイク、装身具に広く刻まれ、家や墓に付して加護を求めるしるしとなった。本項に掲げるのは、アルジェリアのシルタ(現コンスタンティーヌ)で出土した前3〜前2世紀の奉献碑で、三日月とともにこの記号を刻む。

人の姿で表されるときは、獅子の頭を持つ姿、あるいは獅子に乗る姿をとり、その戦士としての性格を示す。翼を備えて描かれることもあり、これはエジプトのイシスの図像の影響とみられる。三日月と金星もこの女神の標識であり、獅子・鳩・棕櫚・薔薇がゆかりの動植物とされる。

図像とともに避けて通れないのがトフェトである。カルタゴなどのフェニキア系都市には、壺に納めた幼児と仔獣の火葬骨を、タニトとバアル・ハンモンへの奉献碑の下に埋めた聖域があった。ここで子供の犠牲が営まれたのか、夭折した幼児の墓地であったのかは、二十世紀以来の激しい論争が続いており、決着していない。古代の記述と碑文の語を根拠に犠牲とみる研究者と、骨の年齢分布が乳児死亡率と矛盾せず古代の記述は反カルタゴの誇張だとみる研究者とが対立している。この女神を語るうえで、確定していないことを確定したように述べないことが要る。

系譜と関係

配偶神はバアル・ハンモン。両者はしばしば一対で祀られ、奉献はこの二柱の名に宛てられた。

他文化の神々との同一視が多い。南フェニキアのザレファトで見つかった碑文は、タニトがフェニキアの女神アスタルト(イシュタル)と結びつけられたことを示す。ギリシア人はこの女神を、戦い・知恵・機織りという似通った性格ゆえにアテーナーと同一視した。ヘロドトスは、アテーナーの装いがリビュアの女性の衣に由来すると記している。エジプト人はこれをネイトと重ねた。ネイトの名がエジプト語で「ネイトの地」を意味するタニトに通じるという語源説もあるが、確かではない。ローマ人はタニトをユーノーの一形態と解し、デア・カエレスティス(天なる女神)として自らの体系に取り込んだ。一柱の女神が、これほど多くの文化の女神と結ばれた例は珍しい。

文化的足跡

カルタゴが前146年に滅びたのちも、タニトの信仰は北アフリカで生き続けた。ローマ期にはデア・カエレスティス、ユーノー・カエレスティスの名で都市の守護女神として祀られ、ポエニ的な性格を古代末期の4世紀まで保った。今日でも北アフリカの一部には、旱魃の年に「母なるタンヌ」に雨を願う習わしが残るという。トゥアレグ族のアガデスの十字にこの女神の記号が伝わるとみる説もある。

近代以降、タニトは文学と芸術にたびたび現れた。ギュスターヴ・フローベールの歴史小説『サランボー』(1862年)は、主人公をタニトの巫女として描き、女神のヴェールをめぐる物語を紡いだ。今日、チュニジアではカルタゴやチュニスの街路にこの女神の名が冠され、「タニトのしるし」は北アフリカの古代文明を象徴する意匠として親しまれている。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ネイト エジプト神話 同一視
北アフリカのベルベル系女神タニトとの同一視。ともに軍神かつ処女なる母神とされた。タニトの名をエジプト語の「ネイトの地」に遡らせる語源説もあるが確実ではない。
アテーナー ギリシア神話 同一視
interpretatio graeca。戦い・知恵・機織りという性格の類似から、ギリシア人はタニトをアテーナーと同一視した。ヘロドトスはアテーナーの装いがリビュアの女性の衣に由来すると記す。
アスタルト 同一視
南フェニキアのザレファトの碑文は、タニトがフェニキアの女神アスタルト(イシュタル)と結びつけられたことを示す。両者の図像はカルタゴの交易圏を通じて似通っていった。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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バアル・ハモン
配偶者
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資料

Wikidata
Q877405 — 骨格データの出典
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