セベク
ソベク · スーコス(ギリシア)
エジプト神話のワニの姿をした神。ナイルの水と豊穣を司り、川の危険から人を守る守護神であり、荒々しい力の神としてファラオや軍の守り手ともされた。ラーと習合してセベク・ラーとなった。
解説
概要
エジプト神話の、ワニの姿をした神。ワニの頭をもつ人、あるいはワニそのものとして表される。ナイルの水と、その恵みがもたらす大地の豊穣を司り、同時に川に潜む危険から人を守る守護神でもあった。荒々しい力の神として、ファラオや軍の守り手とも仰がれる。恵みと脅威という、ナイルのワニがそなえた二つの顔を、そのまま体現する存在である。
神話・物語
セベクの信仰は古く、古王国の『ピラミッド・テキスト』にすでにその名が現れ、そこでは女神ネイトの子として、その力と生命力が讃えられている。原初の水から現れて世界を生んだとする創世の伝えもあり、ナイルそのものを生み出した神とも語られた。時代が下ると、太陽神ラーと習合してセベク・ラーとなり、ワニの姿に太陽円盤をいただく神として、とりわけギリシア・ローマ期に篤く崇拝された。コム・オンボの神殿では、天空の神ホルスと場を分かちあって祀られた。
図像と象徴
セベクは、たくましい人の体にワニの頭をのせ、しばしば高い羽根飾りの冠や、太陽円盤に角を添えた冠をいただく姿で表される。ルクソール博物館に伝わるアメンホテプ3世とセベクの像のように、王と並んで王権を守護する構図も知られる。ワニは、その獰猛さゆえに脅威であると同時に、卵と子を熱心に守る習性から、弱きものを庇う守り手とも見なされた。この両面性が、恐れつつも敬われたセベクの性格をかたちづくっている。
系譜と関係
母は戦いと機織りの女神ネイトとされ、父にはセトやクヌムを挙げる伝えがある。配偶神には豊穣の女神レネヌテトの名も見える。信仰の中心は、湖の広がるファイユーム地方のシェデト(ギリシア名クロコディロポリス=「ワニの町」)と、上エジプトのコム・オンボであった。これらの神殿では、生きたワニがセベクの化身として飼われ、死ぬと丁重にミイラにされて葬られた。数多くのワニのミイラが、今日その信仰の篤さを物語っている。
文化的足跡
ナイルの水と力を司るセベクの名は、「セベクを喜ばせる者」を意味する女王セベクネフェルウなど、王名にも取り入れられた。コム・オンボの神殿は今日も残り、そこに納められたワニのミイラの列は、川の恵みと脅威をひとつの神に見た古代エジプト人の心性を伝えている。ワニの頭をもつ水神の姿は、現代の書物や映像作品のなかでも、エジプトを象徴する神格の一つとして親しまれている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。