レネヌテト
レネネト · エルヌテト · テルムーティス
収穫と養育、そして運命を司るエジプトの女神。コブラの姿で表され、穀倉や酒蔵に像が置かれた。死後の審判では死者の性格をオシリスに報告する役も負う。
解説
概要
レネヌテト(rnnwtt / Renenutet)は、収穫と養育、そして運命を司るエジプト神話の女神である。コブラ、あるいはコブラの頭をもつ女性として表される。
名は「養う」「育てる」を意味する語根に由来する。「供物の女主人」「二重穀倉の尊者」「万人を養う者」といった称号を負い、ギリシア語ではテルムーティス、ヘルムーティスと呼ばれた。古い祭祀の中心は下エジプトのテレヌティスである。
神話・物語
この女神の職掌は、実った穀物と、育つ子どもという二つの領域にまたがる。
養育の面では、王を誕生から死まで乳で養う乳母とされた。王あるいは死者に乳を与える姿が繰り返し描かれる。ここから性格は運命の側へ広がり、とくに幸運と富を司る神となった。運命の神シャイの女性形とされ、シャイやメスケネトとともに死後の審判の間に立ち会って、死者の性格をオシリスに報告する役を負う。何を得て生まれ、どう生きたかを知る神が、最後にその報告をするという配置である。
収穫の面では、シェムウ季の初めにレネヌテト祭が催された。穀物の神である子ネプリを産む日とされ、子神の誕生と新しい穀物の取り入れとが重ね合わされる。テーベではこの日に地域の三柱神の子神が祝われ、在位の王がその子神と同一視された。実りの更新と王位の継承とが、同じ祭のなかで保証されている。
図像と象徴
鎌首をもたげたコブラ、あるいはコブラ頭の女性像。頭には二枚の羽根飾り、または日輪と牝牛の角を戴く。乳を与える姿では人の姿をとることが多い。
置かれる場所が独特である。台所、竈のそば、穀倉、地下の貯蔵室——食べ物が集まり、傷むおそれのある場所に像が据えられた。虫や鼠や蛇から蓄えを守る神として呼ばれたのであって、供物を受ける神であると同時に、供物を守る神でもあった。葡萄酒の壺の栓や封印にもその図像が押されている。エジプトの葡萄酒作りを描いた場面には、この女神への献酒がしばしば添えられる。
古代の図版としてこの女神を確実に同定できる作例が乏しいため、本サイトでは主画像を置いていない。
系譜と関係
夫とされるのはセベクで、ファイユームのメディネト・マディの神殿は両者に捧げられている。ナイルの増水がもたらす泥が実りを可能にするという理屈で、水の神と収穫の女神が組まれた。別の伝えでは夫は大地の神ゲブで、子はネヘブカウという蛇の神である。穀物神ネプリの母ともされる。
下エジプト全域で蛇の女神として崇められるにつれ、同じコブラの女神ウアジェトと重ねられ、やがてその一形態とみなされるようになった。テーベのネクロポリスを守るコブラ女神メレトセゲル、そしてイシスとも習合している。
文化的足跡
蓄えを守る神であることは、記録を守る神であることに近い。壺の封印に押されたこの女神の像は、中身の保証であると同時に、誰がいつ納めたかの記録でもあった。信仰の痕跡が神殿より倉庫に多く残るという点で、エジプトの神々のなかでも変わった位置を占めている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。