メスケネト
メスケネト · メセネト · メスケント
出産の女神で、誕生の瞬間に各人のカー(魂)を作って吹き込む。女が出産の際にしゃがむ「産みの煉瓦」に結びつけられ、人頭を持つ煉瓦として描かれる。『ウェストカー・パピルス』で王の誕生に立ち会い運命を宣した。
解説
概要
メスケネト(msḫnt / Meskhenet)は、出産を司る古代エジプトの女神である。名は、女性が出産の際に足を載せてしゃがむ一対の「産みの煉瓦」を指す語と同じで、産室の道具そのものが女神とされた。生まれる子のそばに立って運命を告げ、その子のカー(生命力)をかたちづくるとも考えられた。
神話・物語
中王国の物語『ウェストカー・パピルス』には、第5王朝の最初の三人の王の誕生が語られる。イシス、ネフティス、ヘケト、メスケネトの四女神は旅の楽師に姿を変え、陶工の神クヌムを伴って産室に入る。イシスが子の名を呼び、ヘケトが出産を早め、クヌムが体に力を与えると、メスケネトは生まれたばかりの子に「彼は全土を治める王となろう」と告げる。三度繰り返されるこの場面で、メスケネトは誕生の瞬間に運命を宣する役を担う。
死後の審判にも現れる。『死者の書』第125章を描いたアニのパピルスでは、心臓の計量の天秤のそばに、運命の神シャイ、養いの女神レネヌテトとともに、人の頭をもつ産みの煉瓦の姿で置かれている。生まれたときに立ち会った女神が、一生の終わりの審判にも立ち会う。
図像と象徴
人の頭をもつ煉瓦、あるいは頭上に子宮を表すとされる二つ巻きの印を載せた女性として描かれる。
2001年、アビュドス南部の中王国の町の遺構で、彩色された産みの煉瓦の実物が見つかった。側面には、生まれた子を抱く母と、それを囲む女性たち、ハトホルの標章が描かれ、この女神が実際の出産でどのように呼び出されたかを具体的に伝える。
系譜と関係
運命の神シャイの妻とされることがある。出産を助ける神としては、蛙の女神ヘケト、妊婦を守るタウエレト、家を守るベスと役割を分け合った。四柱のメスケネトが一組で現れる例もある。
文化的足跡
アビュドスの産みの煉瓦は、文献でしか知られなかった出産儀礼の道具を初めて実物で示したものとして、古代エジプトの女性と家庭の宗教を扱う研究で重視されている。