ムネウィス
ムネヴィス · メルウェル · ネムウェル
ヘリオポリスで祀られた聖なる牡牛。全身が黒い一頭がラーの魂とされ、アピスに次ぐ格を与えられた。アマルナの改革下でも祭祀を許された数少ない信仰である。
解説
概要
ムネウィス(Mnevis)は、ヘリオポリスで祀られた聖なる牡牛である。エジプト語ではメルウェル(mr-wr)またはネムウェルと呼ばれた。ムネウィスはそのギリシア語形である。
もとは独立した神であったが、のちにアトゥム・ラーと結ばれ、その物質的な現れ、太陽神のバア(魂)とみなされるようになった。プルタルコスは、メンフィスのアピスに次ぐ格をもつ牛だと記している。
登場する物語/関わる伝承
アピスと同じく、同時に存在するのは一頭のみである。牛が死ぬと、後継となる完全な黒毛の牛が探し出された。その動きは神意の現れとして読まれ、神託に用いられている。
ムネウィスの神官団は、ムネウィスこそがアピスの父であると主張した。より有名な聖牛に対する格付けの主張であり、神学の言葉で書かれた序列争いである。
牛には二頭の牝牛が伴うとされ、それぞれハトホルとイウサアセトを表した。死んだ牛は防腐処理を施され、ヘリオポリスの神殿にほど近い専用の墓地に葬られる。「ムネウィスの母たち」と呼ばれた母牛——牝牛神ヘサトの化身とされた——には、別の墓域が用意された。
図像と象徴
全身が黒い牡牛として表され、角のあいだに日輪を戴き、その前面にコブラ(ウラエウス)を置く。アピスと構図はほぼ同じで、額の三角形など個々の斑紋の指定がない点、そして毛色が全身黒と定められている点が区別になる。
本サイトが主画像に掲げるのは、前12世紀のムネウィス牛への奉献碑(ミュンヘン、エジプト美術館蔵)である。石灰岩に牛と供物が刻まれた、私人による奉納の作例である。
関係する神格
アトゥム・ラーの現れ。アピス、ブキスと並ぶ三大聖牛の一つ。
文化的足跡
注目されるのはアマルナの改革における扱いである。アクエンアテンが在来の神々の祭祀を停止したなかで、ムネウィスの信仰は容認された数少ない例であった。太陽の性格をもつ牛であったことが理由と考えられている。新都アケトアテンにムネウィス用の墓地を造るよう命じた記録が残るが、その墓地はまだ発見されていない。
ラーの化身としてのムネウィスは、ラーの記事にも「ヘリオポリスで飼われた聖牛」として現れる。太陽神の祭祀都市が、生きた動物をその神の身体として抱えていたことになる。