サマエル
サマエル · サミエル · サンマエル
「神の毒」を意味するタルムード伝統の大天使で、告発者・誘惑者・滅ぼす天使を兼ねる。単純な悪ではなく、人を試すことを職務とする「必要な対抗者」である。死の天使と同一視され、カバラーではリリスの配偶者とされる。
解説
概要
サマエルは、ユダヤ教のタルムードやその後の伝承に現れる大天使である。人を責める告発者、人を誘惑する者、そして神の命によって人を滅ぼす天使という、いくつもの顔を持つ。死の天使とも同一視され、ユダヤ神秘主義カバラーではリリスの夫とされる。悪の存在とされながらも神の秩序の一部として働く、両義的な天使である。名は「神の毒」と解される。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
両義的な天使
サマエルは、単純な悪の存在ではない。人を滅ぼす働きも、神の命によるものである。エジプトの初子を撃った天使とされることもある。天の法廷では人を告発する役を担い、これは『ヨブ記』の告発者ハ・サーターン(サタン)と同じ役回りである。ヤコブと格闘した者、エサウの子孫エドムを守る天使ともされる。ラビたちの文献では、サマエルは人を試すことを務めとする「必要な対抗者」とされる。ユダヤ教の天使の考えでは、悪の天使もまた神の秩序の一部なのである。ただし、『ヨブ記』も『出エジプト記』もサマエルの名は挙げていない。
死の天使
サマエルは、死の天使(マルアフ・ハ・マーヴェト)とも同一視される。その剣の先から一滴の胆汁が滴り、それを口に入れられた者は死ぬという。伝承によれば、サマエルはモーセの魂を取ろうとしたが、モーセはこれを拒み、神自らがモーセの魂を取ったとされる。
リリスの夫
カバラーでは、サマエルはリリスの夫とされる。神と、神の臨在であるシェキナーとの一対に対して、堕ちた側にはサマエルとリリスの一対が置かれているのである。メシアが訪れるときには、この二人は引き離されるという。
名の解釈
「サマエル」は、「毒」を意味する「サム」と、「神」を意味する「エール」から成り、「神の毒」と解される。一方で、「盲目」を意味する語と結びつけて「盲目の神」と解する説もある。キリスト教の異端とされたグノーシス主義の文書では、サマエルは、物質の世界を造った盲目の神デーミウールゴスの名の一つである。「盲目の神」という読み方は、この文脈に対応している。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、死の天使としてのサマエルの図である。
関わる神格・伝承
サタンと同一視され、リリスの夫であり、死の天使である。
ヨハネの黙示録でいなごの王とされるアバドンも、神に仕えて滅ぼす天使の系列に属する。
リリスを除くサマエルの妻たちについては、サマエルの妃たちの項で扱っている。
文化的足跡
サマエルは、現代のオカルトや大衆文化でよく取り上げられるが、その両義的な性格は見過ごされ、単純な悪の存在として扱われることが多い。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。