ラマシュトゥ
ラマシュトゥ · Lamaštu · ディンメ
乳児と妊婦を襲うとされたメソポタミアの女悪霊。獅子の頭と猛禽の爪をもつ姿で表され、これを退けるための護符と儀礼が数多く残る。
解説
概要
ラマシュトゥ(𒀭𒈕𒈨、アッカド語 dLa-maš-tu、シュメール語ではディンメ)は、乳児と妊婦を襲うとされたメソポタミアの女悪霊である。流産と乳幼児の突然の死は、彼女の仕業と広く信じられた。
呪文は彼女を、獅子の頭、驢馬の歯、あらわな胸、毛深い体、血に汚れた手、長い指と爪、そしてアンズーの足をもつ姿として描く。七つの名をもち、七人の魔女として語られることもある。その悪行として、子を殺し、母を害し、人を食らって血を飲み、眠りを妨げ、悪夢をもたらし、草木を枯らし、川と湖を汚し、病と死を運ぶことが挙げられる。
彼女を単なる悪霊と呼びきれない点がある。名が神を示す限定符ディンギルを伴って書かれ、しかも他の神の許しを得ることなく独断で害をなすとされるためである。この二点から、彼女は悪霊というより一個の女神、あるいは半神として理解されていたとみる立場が有力である。
登場する物語
彼女を主人公とする物語はない。姿が見えるのは、もっぱらアーシプの唱える呪文と、それに伴う儀礼のなかである。アンの娘とされ、冥界の川を舟で渡ると信じられた。驢馬との結びつきも伝えられる。
アッカド語で書かれたある呪文と儀礼の次第は、「長引く熱とラマシュトゥを祓う呪文」と注記されている。手順はこうである。彼女をかたどった小像を作り、その前にパンを供えて水を注ぐ。黒い犬にその像を運ばせ、豚の心臓を口に含ませて病んだ子の枕元に三日置く。呪文を日に三度唱え、供物を重ねる。三日目の日暮れに像を屋外へ運び出し、壁のそばに埋める。害をなす存在に形を与え、名を呼び、最後に土へ返すという構造が、この儀礼のすべてを貫いている。
別の呪文では、彼女がイナンナと重ねられる箇所がある。子を守る女神と子を奪う悪霊が同じ形象に触れることは、メソポタミアの母性表象にしばしば見られる振幅である。
図像と象徴
彼女は、姿を明確に描かれた数少ない存在である。妊婦と乳児を守るための護符には、獅子頭の女が驢馬の背または舟の上に立ち、両手に蛇を握り、乳房に犬と豚をあてがう構図が繰り返し刻まれた。主画像に掲げたのはルーヴル所蔵の新アッシリア時代の護符板(AO 2491)の断片で、こうした護符の一例にあたる。
護符の多くは、上部にパズズの頭部を彫り、下段でラマシュトゥを冥界へ送り返す場面を描く。害をなす者どうしを対置し、より恐ろしいほうに退治させるという構えがそこにある。板の裏面や縁には呪文が刻まれ、身に着ける、あるいは寝所の壁に掛けるという用い方をされた。
関係する神格
父は天空神アヌとされる。彼女に対抗する存在として最もよく知られるのはパズズであり、飢饉と旱魃をもたらす神でありながら、産室では守り手として呼び出された。医薬の女神グラもまた彼女の敵手に位置づけられる。バルバラ・ベックは、子を殺す悪霊と神なる産婆という対比から、両者を互いの裏返しと評した。総称としてのウトゥックのうちに数えられることもある。
文化的足跡
ユダヤ伝承のリリスとの関連が古くから論じられてきたが、両者の系譜が直接つながることを示す資料はない(一神教の伝承)。現代では映画、小説、卓上ゲーム、ビデオゲームなどにこの名が用いられ、悪霊としての側面だけが強調される傾向がある。原典が伝えるのは、乳児死亡率の高い社会が恐怖に形を与え、儀礼によってそれを扱おうとした痕跡である。