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ユースティティア
PLATE — IUSTITIA
ROMA · ローマ神話
IUSTITIA

ユースティティア

ユスティティア · ユースティチア · Justitia

Sam Moorhead / Portable Antiquities Scheme CC BY-SA 4.0

ローマの正義の女神。アウグストゥスが導入した比較的新しい神格で、天秤と剣を執る姿は今日の裁判所を飾る正義の女神像の原型となった。

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解説

概要

ユースティティア(Iustitia / Justitia)は、正義を擬人化したローマの女神である。名はラテン語で「正義」そのものを意味する。天秤と剣を持ち、しばしば目隠しをした姿で表され、今日なお世界各地の裁判所を飾る「正義の女神」像の原型となっている。

もっとも、この神格の来歴には注意がいる。ローマの神々のなかでは新しく、皇帝アウグストゥスによって導入された。神殿と祭祀を備えた正式の女神として扱われながら、当初から宗教的な信仰の対象というより、美術上の象徴としての性格が強かったとみられている。今日の像に見られる特徴のうち、少なくとも目隠しは古代のものではない。

神話・物語

物語は伝わらない。この女神を語るのは、皇帝たちの政治的な自己表現である。

アウグストゥスは、自らの徳を刻んだ「徳の楯」(クリペウス・ウィルトゥーティス)に、勇気・寛容・敬虔と並んで正義を掲げた。ティベリウス帝はローマにユースティティアの神殿を建てている。ウェスパシアヌス帝は玉座に坐す女神の姿を刻んだ貨幣を発行し、その銘は「ユースティティア・アウグスタ」と読める。以後、多くの皇帝がこの女神の像を用いて、自らが正義の守護者であることを宣言した。国家が徳目を神として掲げ、貨幣を通じて広める——ウィルトゥースフォルトゥーナと同じ、ローマに特徴的な神格のあり方である。

ギリシアの側では、テミスディケーがこの女神に対応する。テミスは神々の掟を、その娘ディケーは人の世の裁きを受け持ち、法が二層に分かれている。ユースティティアはこの二柱を一つにまとめたものと理解されることが多い。さらにアストライアーとも重ねられ、人類の堕落に失望して地上を去り、おとめ座になったという話が、しばしばユースティティアの物語として語り直された。ただしこれはディケーあるいはアストライアーの伝えであって、ローマの女神に固有のものではない。

図像と象徴

天秤の起源は古代エジプトに遡る。『死者の書』の第125章では、死者の心臓がマアトの「真実の羽根」と天秤で比べられ、アヌビスがこれを司る。釣り合えば来世へ進み、釣り合わなければアメミットに食われる。この図像がギリシアへ、そしてローマへ受け継がれた。世界の視覚記号のなかでも、意味の揺れがまったくない稀な例とされる。ギリシアのディケーも天秤を持つ姿で描かれた。

は古代における権威を表し、裁きが速やかかつ最終的でありうることを示す。

目隠しが加わるのは、16世紀に入ってからである。最初期の作例は、ハンス・ギーングが1543年にベルンの正義の泉に据えた像とされる。しかも当初これは風刺として付けられたものだった。目の前で行われる不正が見えていない正義、という皮肉である。それが時代を経て解釈を変え、富や権力や身分によらず法を適用するという公平の理念を表すものとして理解されるようになった。象徴の意味が反転した、よく知られた例である。

このため、目隠しを付けない像も少なくない。ロンドンの中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)の屋上に立つ像は目隠しをしておらず、裁判所の案内は、もともと正義の女神は目隠しをしていなかったこと、そして「乙女の姿」そのものが公平を保証するので目隠しは不要であることを理由として挙げている。日本の最高裁判所の像も目隠しをしていない。

近年には大きな変更もあった。2024年10月、インド最高裁判所は新しい正義の女神像「ニヤーヤ・デーヴィー」を公開した。目隠しを外し、剣に代えて憲法を表す書物を持たせ、サリーをまとわせている。「法は盲目ではない、すべての者を等しく見る」というのが公表時の説明であった。剣を除いたことは、応報よりも正義(ニヤーヤ)を重んじる刑事法制への転換を象徴するものだと説明されている。

本項に掲げたのは、ウェスパシアヌス帝の金貨(アウレウス)の裏面である。アンティオキアで72年から73年に打たれたもので、IVSTITIA AVG の銘とともに女神が刻まれている。目隠しはない。古代のユースティティアと近世以降の正義の女神像がどこで分かれるかを、一枚の貨幣が示している。

系譜と関係

系譜は語られない。テミスディケーアストライアーと同一視され、ローマの徳目神であるウィルトゥースウィクトーリア、クレメンティア(寛容)、コンコルディア(和合)らと同じ列に並ぶ。法と誓約の神のファセットのなかでは、裁きの結果を下す神ではなく、裁きの手続きが公正であることを保証する側に立つ。

文化的足跡

正義の女神像は、紋章にも広く用いられた。とくに司法関係の官庁の紋章と印章に多い。小惑星帯の269番小惑星ユスティティアにもその名が与えられている。裁判所という近代の制度が、古代の神格の姿を借りて自らを表現し続けているという点で、この女神は生き続けている数少ない古代の神の一つといえる。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ディケー ギリシア神話 同一視
ローマの正義の女神は、ギリシアの正義の女神ディケーと同一視された。ディケーが人の世の裁きを司り不正をゼウスに訴えるのに対し、ユースティティアは皇帝が掲げる徳目として貨幣と神殿に現れる。
テミス ギリシア神話 同一視
神々の掟を司るテミスとも同一視された。ユースティティアはテミス(神の掟)とディケー(人の裁き)を一つにまとめたものと理解されることが多い。
アストライアー ギリシア神話 同一視
人類の堕落に失望して地上を去りおとめ座になったというアストライアーの物語は、しばしばユースティティアの物語として語り直された。
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資料

Wikidata
Q1102307 — 骨格データの出典
Commons
Iustitia — 図像カテゴリ