ゲイルロズ
ゲイルレズ · ゲイルロド · ゲイルロッド
トールに討たれた女ヨトゥン、ギャールプとグレイプの父。ロキの手引きでトールを武器なしに招いたが、女ヨトゥンのグリーズが助けた道具によって討たれた。
解説
概要
ゲイルロズ(古ノルド語 Geirröðr、ゲイルレズ、ゲイルロドとも)は、北欧神話のヨトゥンである。
トールに討たれた女ヨトゥン、ギャールプとグレイプの父にあたる。エイストラ、アンゲヤ、ウルヴルーン、エイルギャヴァ、イム、アトラ、ヤールンサクサの父ともされる。
名は「槍を赤く染める者」と訳される。古ノルド語の男性名詞ゲイル(geirr、「槍」)に由来し、さらにゲルマン祖語 *gaizaz(「槍、穂先」)に遡る。
なお、エッダ詩『グリームニルの言葉』に現れる同名の人物は、これとは無関係である。
神話・物語
『詩語法』が伝える筋はこうである。
ロキがフリッグの鷹の衣をまとって飛んでいたとき、ゲイルロズの館ゲイルロザルガルザルの上で捕らえられ、三か月のあいだ櫃に閉じ込められた。命を助けられる代わりに、ロキは力帯と槌を持たせずにトールをそこへ連れて行くと約束する。
途上、トールとロキ——『トールスドラーパ』ではシャールヴィ——は女ヨトゥンのグリーズの家に立ち寄った。グリーズはゲイルロズの企みを警告し、新しい力帯、鉄の手袋、そしてグリーザルヴォル(「グリーズの杖」)と呼ばれる杖をトールに与える。
ゲイルロザルガルザルに着いたトールは、ゲイルロズから遊びを挑まれた。ヨトゥンが赤熱した鉄塊を投げつけると、トールは鉄の手袋でこれを受け止める。ゲイルロズが柱の陰に隠れようとしたところ、トールは鉄塊を柱ごと貫いて投げ、これを殺した。
この物語は10世紀後半のスカルド詩『トールスドラーパ』(エイリーヴ・ゴズルーナルソン作)に言及があり、13世紀初頭の『詩語法』はこれを引いている。サクソ・グラマティクス『デンマーク人の事績』にも記述がある。
図像と象徴
古い図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
物語の構造に注目したい。トールは自分の道具——ミョルニルと力帯——を持たずに敵地へ赴き、代わりに別のヨトゥンから借りた道具で戦う。ヨトゥンの企みをヨトゥンが警告し、ヨトゥンの道具でヨトゥンが討たれる。アース神族とヨトゥンの関係が敵対だけで成り立っていないことを、この一篇はよく示している。
関わる神格・伝承
娘はギャールプとグレイプ。ヤールンサクサの父ともされ、その場合トールの子マグニの祖父にあたる。
トールの旅を主題とする物語群——ウートガルザ・ロキ、ヒュミル、フルングニル——のうちの一つに属する。いずれもトールが東方のヨトゥンの国へ赴き、試され、あるいは戦う筋をとる。
文化的足跡
土星の衛星ゲイルロドは、このヨトゥンにちなんで命名された。2004年に発見された不規則衛星である。
日本語圏では、トールのヨトゥン退治といえばウートガルザ・ロキの挿話が広く知られる。ゲイルロズの物語は、道具を持たずに赴くという点でむしろ異例であり、グリーズという助力者の存在も含めて、独自の構成を持っている。