フリッグ
フリッガ · フリーヤ · Frigg
北欧神話のアース神族最高位の女神。オーディンの妃にして神々の女王で、結婚と母性を司る。あらゆる運命を知りながら語らない予見の力をもち、子バルドルの死を嘆いた。
解説
概要
フリッグ(Frigg)は、北欧神話のアース神族の女神で、主神オーディンの妻である。名はゲルマン祖語の *Frijjō(「愛される者」)に遡り、古英語フリーグ、古高ドイツ語フリーヤと同源である。結婚と母性に結びつけられ、湿地の館フェンサリルに住む。スノッリは女神たちのなかで最も高位の者とし、あらゆる者の運命を知りながらそれを語らないと記す(『ギュルヴィたぶらかし』第20章)。『ロキの口論』29節でもフレイヤが、フリッグはすべての定めを知っているが自らは口にしないと述べている。
神話・物語
最も名高いのはバルドルの死をめぐる話である。『ギュルヴィたぶらかし』第49章によれば、バルドルが不吉な夢を見ると、フリッグは火と水、鉄や石、病や毒、獣や鳥にいたるまで、あらゆるものからバルドルを傷つけないという誓いを取りつけた。ヤドリギだけは若すぎると見て誓わせなかった。これを女に化けたロキに聞き出され、ヤドリギは盲目のヘズの手でバルドルに投げられる。フリッグは冥界へ赴いてバルドルを取り戻す者を募り、ヘルモーズがこれに応じた。『巫女の予言』は、フェンサリルでバルドルの死を嘆くフリッグの姿を短く伝える。
夫と張り合う妻としての姿もある。『グリームニルの言葉』の散文序では、オーディンとフリッグがそれぞれ育てた王子アグナルとゲイルロズの器量を競い、フリッグは侍女フッラを送ってゲイルロズに客人を疑わせ、変装したオーディンを捕らえさせる。『ヴァフスルーズニルの言葉』の冒頭では、オーディンが巨人のもとへ出かける前にフリッグに意見を求めている。
不貞の話も伝わる。『ユングリング家のサガ』第3章は、オーディンが長く留守にしたあいだ、兄弟ヴィリとヴェーが国を分け、フリッグをともに妻としたと記し、『ロキの口論』26節でロキがこれを持ち出してフリッグを嘲る。
大陸の資料にも名が残る。10世紀の写本に残る『メルゼブルクの呪文』第二呪文では、フリーヤとその姉妹フォラが馬の脚を癒す呪文を唱える。7世紀の『ランゴバルド族の起源』では、女神フレアがヴィンニリ族の女たちに髪を顎の前に垂らして髭のように見せよと教え、夫ゴダン(ウォーダン)に「この長い髭の者たちは誰か」と言わせて勝利を与えさせる。

図像と象徴
古代のフリッグを描いたと確かめられる図像はない。持物として原典に見えるのは鷹の羽衣で、ロキがこれを借りて飛ぶ(『詩語法』のゲイルロズの段)。糸を紡ぐ女神という連想は、オリオン座の三つ星をスウェーデンで「フリッグの糸巻き棒」と呼んだような後代の民間の呼び名に拠るもので、雲を紡ぐ天空の女王という姿は近代の再話と挿絵が作った。本図もその一例で、H・A・ゲルバー『北欧人の神話』(1909年)に載ったJ・C・ドルマンの挿絵である。中世の作例としては、12世紀のシュレースヴィヒ大聖堂の壁画に描かれた、糸巻き棒にまたがる女性をフリッグとみる説がある。
侍女として、櫃と履物を預かるフッラ、使いのグナー、守り手フリーンらが仕える(フリッグの侍女たち)。
系譜と関係
『詩語法』は、フリッグをフィヨルギュン(男性形 Fjǫrgynn)の娘、オーディンの妻、バルドルの母と呼び、ヨルズ・リンド・グンロズ・グリーズを「共妻」とする言い換えも挙げる。子はバルドルで、ナンナの姑、ヴァーリの継母にあたる。
豊穣と愛の女神フレイヤとは、名も性格も近く、ともに鷹の羽衣を持ち、夫が長く不在になる話を持つことから、もとは一柱のゲルマンの女神に遡るのではないかとする説が根強い。英語の金曜日(Friday)、ドイツ語の Freitag は、ラテン語の「ウェヌスの日」(dies Veneris)を訳したときにこの女神の名を当てたもので、ここからローマのウェヌスと重ねられたことが分かる。
文化的足跡
ワーグナーの《ニーベルングの指環》では、結婚の女神フリッカとして、夫ヴォータンに結婚の掟を守らせる役を担う。母として子を守ろうとして定めを覆せなかったバルドルの挿話は、後世の詩や絵画にくり返し取り上げられてきた。現代ではFGO・女神転生などの作品にも登場する。

領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。