グナー
グナ · グネーヴァル · Gná
フリッグの使いとして諸世界へ赴く女神。空も海も駆ける馬ホーヴヴァルプニルに乗る。「われは飛ばず、されど行く」と韻文で答える場面が伝わる。
解説
概要
グナー(古ノルド語 Gná)は、北欧神話の女神である。アース神族の一員で、女神フリッグの使いとして他の世界へ赴く。
空も海も駆けることのできる馬ホーヴヴァルプニル(「蹄を投げる者」)に乗る。
神話・物語
『ギュルヴィたぶらかし』第35章で、高き者が十六柱のアーシュニュル(女神)を紹介する。グナーはその十三番目に挙げられ、フリッグが用を言いつけてさまざまな世界へ遣わすと記される。
高き者はこう続ける。あるときヴァン神族の何者かが、空を駆けるグナーの姿を見て問うた——
あれは何が飛ぶのか 何が行くのか あるいは空を進むのか
グナーは韻文で答え、そのなかで馬の血統を明かした——
われは飛ばず されど行き 空を進む ホーヴヴァルプニルに乗りて ハムスケルピルがガルズロヴァに得たるものに
空高く駆けるグナーに由来して、高く駆けるものはグネーヴァルと呼ばれるという。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、カール・エミール・デープラーの挿絵《フリッグとその侍女たち》である。右端の人物がグナーであろうと解されている。
象徴の中心は馬である。ホーヴヴァルプニルは空と海の双方を駆ける。八本脚のスレイプニルと並んで、北欧神話における超越的な馬の例として挙げられてきた。
飛ぶのではなく「行く」と答える一節も注目される。グナー自身が飛翔するのではなく、馬が空を進むのだという区別が、わざわざ韻文で述べられている。
19世紀には、ローマのファーマ(噂・名声の女神)と同源ではないかとする説が提出された。今日この説は支持されていない。研究者はこの女神を「充溢の女神」とみる説を提示している。
関わる神格・伝承
主はフリッグ。同じくフリッグに仕える女神としてフッラとフリーンが挙げられる。
使いを務める女神という職掌は、メソポタミアのニンシュブルとも比較しうる。ただし両者を結ぶ史料上の根拠はない。神々の階層において、上位の神の意志を運ぶ役が独立した神格として立てられるという点が共通している。
文化的足跡
日本語圏では、フリッグの侍女といえばフッラの名が挙げられ、この女神まで紹介されることは少ない。
十六柱のアーシュニュルの多くは名と一言の説明しか伝わらない。そのなかでグナーには韻文の問答が残されており、馬の血統まで明かされている。断片的な記述のなかで、この女神には比較的多くが与えられている。