バステト
バスト · バステート
古代エジプトの猫の女神。ラーの娘で、はじめは雌獅子、のちに猫の姿をとる。家庭と女性を守り、豊穣と歓喜を司る。荒ぶるラーの目の一面ももつ。
解説
概要
バステト(bꜣstt / Bastet)は、猫を聖獣とする古代エジプトの女神である。太陽神ラーの娘とされ、はじめは荒々しい雌獅子の女神であったが、のちにしなやかな猫、あるいは猫の頭をもつ女性の姿へと転じた。家庭と女性、子を守る神であり、悦楽と音楽、豊穣をも司る。その根には、荒ぶるラーの目としての性格が息づいている。
神話・物語
バステトは、ラーが世に遣わす目の化身のひとつであり、遠く去ってはまた戻る「遠ざかる女神」の物語に連なる。その原初の姿は、地を焼く太陽の熱を思わせる猛る雌獅子であった。同じ雌獅子の女神セクメトとは姉妹とされ、セクメトが上エジプトを、バステトが下エジプトを守る対の守護神として並べられる。時代が下るとともに、バステトの図像はやわらぎ、猛る獣から人に寄り添う猫へと姿を変えていった。
その信仰の中心は、下エジプトのブバスティスであった。ヘロドトスは、この地で年ごとに催されるバステトの祭を、エジプトでもっとも賑わう祭のひとつとして書き留めている。歌と踊り、大量の酒を伴うその祭には、幾十万もの人が舟で集ったという。猫は神聖な生き物とされ、その亡骸はミイラにされて女神に捧げられた。
図像と象徴
初期のバステトは、雌獅子の頭をもつ女性として表された。のちの時代には、坐した猫そのものとして、あるいは猫の頭をもつ女性が、聖なる楽器シストラムや首飾りを手にする姿で描かれる。足もとに子猫を伴う像は、多産の願いと結びつく。末期王朝には精巧な青銅像が数多く作られ、大英博物館の「ゲイヤー・アンダーソンの猫」は、金の装身具をまとった気高い猫の姿にこの女神を写した名品である。
系譜と関係
父はラー、姉妹とされるのは雌獅子の女神セクメトである。工匠神プタハの妻とされ、獅子神マヘスを子にもつとも伝えられる。音楽と悦楽を司る点ではハトホルと近く、シストラムを共有する。ギリシア語期のエジプトでは、狩りと女性を守る女神アルテミスと同一視され、ギリシア人は彼女を「猫」を意味するアイルロスの名でも呼んだ。
文化的足跡
バステトは、暮らしにもっとも近い神々のひとりとして古代エジプトで広く愛された。猫を神聖視する文化のもと、ブバスティスやサッカラの墓地からは膨大な数の猫のミイラが見つかっている。その優美な猫の像は、今日なおエジプト美術のなかでもとりわけ親しまれる意匠となっている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。