アウトリュコス
アウトリュコス · Autolykos · Autolycus
ギリシア神話の盗みの名人。ヘルメースの子で、オデュッセウスの母方の祖父にあたり、その狡知の出どころとされる。
解説
概要
アウトリュコス(Αὐτόλυκος / Autolykos)は、盗みと偽誓の名手として知られる人物である。ヘルメースの子とされ、父から手品めいた技を授かった。触れたものを見えなくし、白い獣を黒く、黒い獣を白くし、角のある獣から角を移し替えることができたという。
オデュッセウスの母アンティクレイアの父、すなわち英雄の母方の祖父にあたる。生まれた孫に「憎まれる者」の名を与えたのも、この祖父である。
神話・物語
最もよく知られるのはシーシュポスとの知恵比べである。コリントスの近くに住んだ彼は、シーシュポスの家畜を繰り返し盗み、角と毛色を変えて足がつかないようにした。だがシーシュポスは自分の家畜の蹄の裏に文字を刻んでおり、蹄跡をたどって証人の前で盗みを立証する。
この一件には続きがある。口論のあいだにシーシュポスがアウトリュコスの娘アンティクレイアと交わったとも、アウトリュコスが降参して娘を与えたとも伝えられる。いずれの版でも帰結は同じで、オデュッセウスの抜け目のなさは祖父とシーシュポスの双方に由来する、という説明になる。狡知の血統を二重に用意した系譜である。
ヘーラクレースにレスリングを教えたのも彼だとされる。またオイカリア王エウリュトスの牛を盗んでヘーラクレースに売りつけ、それが疑いを招いてイーピトス殺害と贖罪の奴隷奉公につながったとする伝えがある。ヘーラクレースが意趣返しのために盗ませたのだとする、逆向きの説明もある。
図像と象徴
固有の図像は知られていない。彼の技——見えなくする、色を変える、角を付け替える——はいずれも痕跡を残さないことを本質としており、描いてしまえば技が成立しない。壺絵が主題としたのは、むしろその技を見破ったシーシュポスの側であった。
系譜と関係
父はヘルメース、母はダイダリオーンの娘キオネー。異父の双子の兄弟に楽人ピラムモーンがいるとされる。妻アムピテアーとの間に、アンティクレイア(オデュッセウスの母)、ポリュメーデー(イアーソーンの母とする説がある)、アイシモスをもうけた。娘の婚家を通じてラーエルテースの家に狡知が入り、孫の代でそれが英雄の資質として結実する、という筋書きになっている。
文化的足跡
名は autos(自身)と lykos(狼)から「狼そのもの」と解される。シェイクスピア『冬物語』に登場する行商人の詐欺師オートリカスは、この人物の名を借りたものである。