アシャ・ワヒシュタ
アルタ・ワヒシュタ · アルドワヒシュト · オルディーベヘシュト
ゾロアスター教のアムシャ・スプンタの一柱。名は「最善の真理」を意味し、世界と人の生を貫く秩序を神格化する。後代には火の守護者とされ、ついには聖火そのものと重ねられた。
解説
概要
アシャ・ワヒシュタ(アヴェスター語 aṣ̌a vahišta)は、アムシャ・スプンタの一柱で、名は「最善の真理」を意味する。中期ペルシア語でアルドワヒシュト、新ペルシア語でオルディーベヘシュト。真理・正義・宇宙の秩序を指す根本概念アシャが神格として立てられたもので、虚偽ドゥルジュと対をなす。
『ガーサー』では概念と神格を読み分けられない箇所が多く、「最善の」という添え名が固有名の一部として定着するのは後代のヤシュト以降である。本項は神格としての側面を扱い、概念そのものの内容はアシャの項に譲る。
神話・物語
アヴェスターは人を義者アシャワンと不義者ドルグワントに分ける。義者は死後かならず天へ赴くとされ、この二分は宗教的な人間観の核をなした。もっとも重んじられる祈り「アシェム・ウォフ」はこの霊に捧げられ、日々の祈祷のなかで繰りかえし唱えられる。
三徳の配当は文献によって動く。『ガーサー』ではアシャが善き行いに結びつけられるが、『デーンカルド』3.13–14では善き行いがこの霊に、善き言葉がスラオシャに置かれる。抽象徳目の割り振りが一定しないこと自体が、この体系の性格を示している。
図像と象徴
この霊を表した図像は伝わらない。本サイトが主画像を掲げないのはこのためである。造形の代わりにこの霊を可視化したのは火であった。後代の神学は、不浄と結びつけられた敵対者ドゥルジュに対してこの霊に清浄を司らせ、やがて被造物のうち火の守護者とした。ゾロアスター教の聖火はアシャそのものと同一視されるに至る。抽象概念が像ではなく祭具のかたちで具体を得た例であり、火を絶やさぬ神殿の営みがそのまま図像の役を果たしている。
系譜と関係
六柱のうち、アフラ・マズダーに次いで重んじられる。ヤザタのうち勝利の神ウルスラグナ、癒しの神アリヤマン、使者ナイリヨーサンハは、この霊の助力者(ハムカール)に数えられる。敵対者はドゥルジュであるが、後代の魔神の一覧ではインドラが対置される。インドで神々の王であった神格がイランでは魔神に落とされており、インド・イラン共通期からの分岐を示す例としてしばしば引かれる。暦では各月の第3日と年の第2月を司る。
文化的足跡
イラン暦の第2月オルディーベヘシュトにその名が残る。