アンドロゲオース
アンドロゲオス · アンドロゲウス · Androgeos
ミーノースとパーシパエーの子。パンアテーナイア祭で全種目に優勝したのち殺され、その報復としてアテーナイはミーノータウロスへの貢納を課された。
解説
概要
アンドロゲオース(Ἀνδρόγεως)は、ギリシア神話の人物である。クレータ王ミーノースとパーシパエーの子にあたる。
名はアンドロス(「男の」)とゲー(「大地、土地」)に由来する。同じ名を持つ人物としては、ほかにトロイア陥落の際のギリシア方の兵士がいる。
神話・物語
この人物の死が、アテーナイとクレータの関係を決定づけた。
伝えによれば、アンドロゲオースはアテーナイのパンアテーナイア祭の競技に参加し、すべての種目で優勝した。これを妬んだアテーナイ王アイゲウスが、彼をマラトーンの牡牛に立ち向かわせ、そのために命を落としたという。あるいは、勝利を妬んだ競技者たちが待ち伏せて殺したとも語られる。
子の死を知ったミーノースは軍を起こしてアテーナイを攻めた。アテーナイは疫病と飢饉に見舞われ、神託に従ってクレータの求めるものを差し出すことになる。九年ごとに七人の少年と七人の少女をミーノータウロスの贄として送るという貢納である。
この貢納を止めるために立ったのがテーセウスである。彼はクレータへ渡り、アリアドネーの糸を頼りに迷宮へ入ってミーノータウロスを討った。
つまりアンドロゲオースの死は、ギリシア神話でも有数の物語群——ミーノータウロス、迷宮、テーセウス——の発端にあたる。当人が果たす行為は、競技に勝つことと死ぬことだけである。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
物語における位置は、キアンやアッカ・ラレンティアのような、死によって物語を起動する人物のそれである。優れた者が妬まれて殺され、その報復として都市が代償を負う——この構造が、以後の一連の物語の前提を作っている。
競技での勝利が死を招くという筋も見逃せない。ギリシアにおいて競技は名誉の源であると同時に、妬み(プトノス)を呼ぶものでもあった。神々の妬みを説くギリシアの思想が、人の妬みの水準でも語られている。
系譜と関係
父はミーノース、母はパーシパエー。兄弟姉妹にアリアドネー、パイドラー、デウカリオーン、グラウコスらがいる。
アテーナイ側からはアイゲウスとテーセウスに、クレータ側からはミーノータウロスとアリアドネーに接続する。二つの都市の物語を繋ぐ結節点である。
文化的足跡
日本語圏では、テーセウスとミーノータウロスの物語は広く知られる一方、なぜアテーナイが貢納を課されたのかまで語られることは少ない。
ウェルギリウス『アエネーイス』第2巻に現れるアンドロゲオースは、トロイア陥落の夜にギリシア方の兵士として登場する別人である。同名の混同に注意がいる。