ミーノータウロス
ミノタウロス · ミノタウルス · アステリオーン
ギリシア神話で牛の頭と人の体をもつ怪物。クレタ王妃パーシパエーと牡牛の子で、迷宮ラビュリントスに閉じ込められた。アテーナイの若者を餌としたが、英雄テーセウスにアリアドネーの糸の助けで討たれた。
解説
概要
ギリシア神話に登場する、牛の頭と人の体をもつ怪物。クレタ王ミーノースの妃パーシパエーと一頭の牡牛とのあいだに生まれ、名匠ダイダロスが築いた迷宮ラビュリントスに閉じ込められた。真の名をアステリオーン(「星の者」)という。人身の内に獣性を抱えた異形として、また、王家の罪から生まれた秘された存在として語られる。
登場する物語
その出生は、王ミーノースの不敬に発する。ミーノースは海神ポセイドーンに、王権のしるしとして牡牛を送るよう求め、これを生贄に捧げると約した。海から現れた見事な白い牡牛を、しかしミーノースは惜しんで手元に留めたため、怒ったポセイドーンは妃パーシパエーにこの牡牛への激しい恋情を吹き込んだ。ダイダロスの作った木製の牝牛の内に身を潜めて牡牛と交わったパーシパエーは、やがて牛頭の子を産む。ミーノースはこの怪物を迷宮に隠し、アテーナイに貢納を課した。それは、若者と乙女あわせて十四人を送り、怪物の餌とするというものであった。貢納の間隔は伝承によって割れ、九年ごととも、毎年とも語られる。三度目の貢納の折、英雄テーセウスがみずから志願してクレタへ渡り、彼に恋したミーノースの娘アリアドネーから糸玉を授かる。入口に糸を結んでたどりながら迷宮の奥へ進んだテーセウスは、ミーノータウロスを討ち、糸を頼りに生還した。
図像と象徴
古典期の壺絵では、牛の頭をもつ筋骨たくましい人体として表され、テーセウスに組み伏せられ、あるいは剣で討たれる場面がとりわけ好まれた。前515年頃のアッティカの杯(キュリクス)の見込み絵は、その代表的な作例である。半人半獣という造形は、文明を築く人間のうちに残る獣性や、抑えるべき欲望の象徴として読まれてきた。閉じ込める迷宮と、閉じ込められる怪物とは分かちがたく結びついており、両者あわせて一つの主題をなす。
系譜と関係
母は王妃パーシパエー、父は海から現れたクレタの牡牛。異父の兄弟姉妹に、テーセウスを助けたアリアドネーや、アテーナイで落命したアンドロゲオースらがいる。怪物自身は神ではなく、神々の怒りと人の過ちが生んだ存在として、クレタ王家の物語に組み込まれている。なお、父である牡牛は、のちにヘーラクレースが生け捕りにする功業の一つ「クレタの牡牛」としても語られる。
文化的足跡
迷宮とそこに潜む怪物という主題は、後世の文学・美術で繰り返し取り上げられてきた。クノッソスの宮殿の入り組んだ構造が伝説の背景にあるとする説や、クレタの牡跳び儀礼との関わりを説く見方もある。牛頭の怪物と迷宮の像は、近代以降も絵画や小説、映画・ゲームのなかで、人の内なる獣性や逃れがたい状況の比喩として生き続けている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。