アエーシュマ
アエーシュマ・ダエーワ · エーシュム · ヘーシュム
ゾロアスター教の魔神。名は「憤怒」を意味し、血に塗れた棍棒をもって暴力と酩酊を司る。従順の神スラオシャの一貫した敵であり、終末に討たれるとされる。
解説
概要
アエーシュマ(アヴェスター語 aēšma)は、ゾロアスター教の魔神である。名は「憤怒」「狂暴」を意味する。ザラスシュトラ自身に帰される『ガーサー』にすでに名が現れる、古い層に属する存在である。常用の添え名は「血まみれの棍棒の」で、これに対するスラオシャの添え名は「強き棍棒の」——両者は武器の性質によって対置される。
神話・物語
この魔神が司るのは、意味を欠いた暴力である。家畜への残虐、戦場の狼藉、酩酊による粗暴——いずれもこの魔に帰され、それらは正しい祭祀の意図と意味をゆがめるとされた。『ヤスナ』第10章は、ほかの酔いはすべて血まみれの棍棒のアエーシュマを伴うが、神酒ハオマの酔いは天則アシャを伴う、と説く。
創世の場面では、悪しき心アカ・マナフを選んだ魔神ダエーワたちがこの魔のもとに集い、地上の人の敵となったと語られる。従順の神スラオシャは日没ののち地上に降りてこれと戦い、終末の刷新に際してこれを打ち倒すとされる。救世主サオシュヤントに討たれるとする伝えもある。
図像と象徴
この魔を表した古代の造形は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。中世ペルシア語の文献ではヘシュムの名で現れる。
系譜と関係
アンラ・マンユの配下にあり、ダエーワの群れを率いる。敵対するのはスラオシャ、ミスラ、ラシュヌ——いずれも祭祀と裁きに関わる神格である。
文化的足跡
ユダヤ教の伝承と『トビト書』に現れる悪魔アスモデウスを、アエーシュマ・ダエーワの名に由来するとみる説が古くからある。語形の対応を根拠とする有力な説だが、異論もあり定説には至っていない。
なおゾロアスター教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格と伝承に関する学術的な整理である。