ラシュヌ
ラシュン · ラシュヌウ · Rašnu
ゾロアスター教のヤザタで、正義を司る。黄金の天秤で死者の行いを量り、ミスラ・スラオシャとともに審判の橋で裁きを下す三柱の一とされる。
解説
概要
ラシュヌ(アヴェスター語 rašnu)は、ゾロアスター教のヤザタで、正義を司る。中期ペルシア語ではラシュン。定型の添え名は「最も真っ直ぐな者」である。ミスラの従神とされ、暴力の魔神アエーシュマと敵対する。
神話・物語
死者の魂がチンワト橋へ至るとき、この神格は黄金の天秤を執って生前の行いを量る。ミスラ、スラオシャとともに裁きを下す三柱の一で、善行が重ければ魂は「歌の館」へ、悪行が重ければ「虚偽の館」へ送られる。伝承では、死後三日のあいだ魂は自らの遺体のかたわらをさまよい、その間に秤が働くという。
『ブンダヒシュン』26.115–117は、この神格を不死の霊アムルタートの助力者(ハムカール)に数え、また魔神が物質の被造物を滅ぼすのを妨げる真理そのものであるとする。同じ箇所は、偽りの判決を下す裁き手の位をラシュヌはそこに認めない、と伝えている。裁く者もまた裁かれる、という含みである。『デーンカルド』8.16によれば、今日失われた法律書ドゥワースルード・ナスクには、この神格の至高を讃える箇所があったという。
図像と象徴
この神格を確実に表した図像は伝わらない。本サイトが主画像を掲げないのはこのためである。造形の代わりにこの神格を語るのは天秤である。行いを量りうるものとして扱う想像力は、エジプトで心臓とマアトの羽根を天秤にかける『死者の書』の場面にも働いており、後世のキリスト教美術で魂を量る大天使の像にも受け継がれた。ただしこれらが系統を同じくするわけではない。量るという比喩が、裁きを可視化する手段として各地で独立に選ばれたとみるべきである。
系譜と関係
ミスラ、スラオシャと三柱をなすが、担う働きは分かれる。ミスラは契約の神として、スラオシャは魂に付き添う者として、ラシュヌは量る者として橋に立つ。暦では各月の第18日を司り、サーサーン朝期の『アードゥルバード・マーラスパンダーンの教訓』は、この日を生の楽しい日と記している。