アイグレー
アイグレ · アイグレア · Aegle
ギリシア神話で「輝き」を意味する名。アスクレーピオスの娘、ナーイアス、ヘーリアデス、ヘスペリデスの一人など、同名の女性が七人ほど知られる。
解説
概要
アイグレー(Αἴγλη、「輝き」「まばゆい光」)は、ギリシア神話に現れる複数の女性の名である。同じ名を負う者が七人ほど知られており、系譜も物語も互いに異なる。
本項では、そのそれぞれを整理する。
同名の女性たち
アスクレーピオスの娘。 名は「輝き」あるいは「壮麗」を意味する語に由来するとされ、健やかなときの人の身体の美しさによる、あるいは医の職に払われる敬意によるという。イアソー、パナケイア、ヒュギエイア、アケソー、マカーオーン、ポダレイリオスの姉妹にあたる。五姉妹のうち、この女性が担うのは輝くような健やかさである。
ナーイアスの一人。 ゼウスとネアイラの娘で、最も美しいナーイアスとされる。ヘーリオスとのあいだにカリテスをもうけた。
ヘーリアデスの一人。 ヘーリオスとクリュメネーの娘で、パエトーンの姉妹。弟の死を嘆くあまり、姉妹たちとともに白楊に変えられた。
ヘスペリデスの一人。 世界の西の果てで黄金の林檎の園を守る。ヘーラクレースが竜ラードーンを射殺して実を奪った翌日、コルキスから帰るアルゴナウタイの一行がこの地を通りかかり、このアイグレーの嘆きを聞いた——アポロニオス『アルゴナウティカ』が伝える場面である。
コローニスの別名。 プレギュアースの娘でアポローンの恋人。アスクレーピオスの母にあたる。
パノペウスの娘。 ポーキスの英雄の娘で、テーセウスに愛され、そのためにテーセウスはアリアドネーを棄てたと語られる。
ディオニューソスの乳母。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、後2世紀の小像である(ギリシア・ディオン考古学博物館蔵)。アスクレーピオスの子どもたちを表した一群のうちの一体で、姉妹のパナケイアとアケソーの像とともに出土した。
同じ名が複数の人物に与えられているという事態そのものが、この項の主題である。アイグレーは「輝き」を意味する普通名詞であり、ギリシア人はこれを人名として繰り返し用いた。医の女神にも、泉のニュンペーにも、林檎の園の番人にも、同じ語がふさわしいと考えられたのである。
関わる神格・伝承
アスクレーピオスの娘としては、ヒュギエイア、パナケイア、イアソー、アケソーと五姉妹をなす。ヘスペリデスの一人としては、エリュテイアやヘスペリアと並ぶ。
なお、ヘスペリデスの名の一覧にヒュギエイアが含まれる作例もある(メイディアスのヒュドリア)。同じ名が別の系譜に配されるという現象は、この名に限らずギリシア神話に広く見られる。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。アスクレーピオスの五姉妹を列挙する文脈で、末尾に置かれる程度である。
それでも当DBの七記事がこの名に言及していた。名が同じであるというだけで別々の系譜に置かれた女性たちを、一つの項目にまとめて整理しておくことには、実務上の意味がある。