アケソー
アケーソー · アケソ · アケシス
治癒の過程を司るギリシアの女神。アテーナイとエピダウロスで祀られた。姉妹パナケイアが治癒の結果を担うのに対し、この女神は癒えていく過程そのものを表す。
解説
概要
アケソー(Ἀκεσώ、アケーソーとも)は、ギリシア神話で健やかさと治癒の過程を司る女神である。アテーナイとエピダウロスで祀られた。
名は「癒す者」を意味する。姉妹のパナケイアが「万能の薬」すなわち治癒の結果そのものを表すのに対し、この女神が担うのは癒えていく過程である。
神話・物語
物語は伝わらない。伝わるのは、姉妹たちのあいだの分担と、祀られた場所だけである。
医神アスクレーピオスとエピオネーの娘であり、イアソー、ヒュギエイア、パナケイア、アイグレーの姉妹にあたる。男性形の対はアケシス(Akesis)と呼ばれる。
治すことと治ることを分けるという発想が、この女神の存在の理由である。薬が効くこと(パナケイア)と、病が退いていくこと(アケソー)と、そして回復すること(イアソー)は、ギリシア語では別々の語で呼ばれた。それぞれに女神が立てられている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、後2世紀の小像である(ギリシア・ディオン考古学博物館蔵)。アスクレーピオスの子どもたちを表した一群のうちの一体で、姉妹のパナケイアの像とともに出土した。
ギリシアの浮彫では、父アスクレーピオスと姉妹たち——ヒュギエイア、パナケイア、アイグレー、イアソー——とともに並んで現れる。単独で表されることはほとんどない。
固有の持物も、姿の特徴も伝わらない。この女神を識別できるのは、銘があるときだけである。それでも像が作られ、名が刻まれたという事実自体が、治癒の過程という抽象的な観念が祭祀の対象になりえたことを示している。
系譜と関係
父はアスクレーピオス、母はエピオネー。姉妹はヒュギエイア、パナケイア、イアソー、アイグレー。弟にテレスポロスがいる。
エピダウロスにおける名の異同にも注意がいる。テレスポロスはティタネではエウアメリオーン、エピダウロスではアケシス(「治癒」)と呼ばれた。この女神の男性形の対と同じ名である。抽象名詞から神格を立てるという作法が繰り返された結果、似た名の神格が複数生じている。
文化的足跡
日本語圏でこの女神が紹介されることはまずない。名を挙げられるのは、アスクレーピオスの五人の娘を列挙する場合に限られる。
しかしこの姉妹の構成は、ギリシア人が医療をどう分節していたかを伝える資料でもある。今日の医学が「治癒」と「回復」と「予防」を別の語で扱うのと同じ区分が、神格の名としてすでに立てられていた。神々の一覧は、その文明が世界をどこで切り分けていたかの一覧でもある。